ゲームウオッチ
2008年度・全日本選手権【その1】



激ラリーの応酬!
卓球が観てもおもしろいスポーツになった

スイングが水平になったのは
補助剤禁止の影響か?!

 今回の全日本ほど、観戦していて楽しいものはなく、ほんとうにすごいラリーや好プレーの連続で興奮してしまいました。もう、書きたいことが山ほどあって、整理するのに苦労します。
 やはり、ラバー接着補助剤禁止の影響は確実で、打球のスピードは落ちており、そのぶんラリーが連続するようになりました。いままで、補助剤をつかったスピードに適応していたプレーヤーですから、そのスピードが落ちたぶん、とうぜん強打や強ドライブには簡単に適応してしまうのでしょう。
 試合前のフォアの練習を観ていると、あれ?と思うことがありました。多くの選手のフォアハンドスイングが水平になっているのです。補助剤がつかえなくなった影響なのか、水平にスイングすることでスピードを増したいのでしょう。
 ラリーが続くと、しかもいくらスピードが落ちたとはいえ、そこは全日本のトップクラス、かなりのスピード感があり、観ていておもしろいですね。今回の全日本では、男女とも準々決勝あたりから、どのコートでも白熱したラリーが展開していました。今後、卓球はプレーヤーや愛好家だけでなく、一般の人たちにもますます人気が出るのではないでしょうか。
 卓球はいままで、観るよりもやるほうが断然おもしろいスポーツでしたが、これからは観てもやってもおもしろいスポーツになりますね、まちがいなく。

 卓技研・全日本大予想は男女とも優勝者(吉田・藤沼)は外れました。しかし、前回の「予想」をお読みいただければわかるように、今回の全日本で上位に食い込む選手はほぼ的中しています。とくに、男子のベスト4は完勝です。水谷、吉田、松平健太はとうぜんとしても、上田はちょっと大胆だったと思うのですが。
 全体的に今回の全日本の印象は、激しいラリーが連続したということと、中高生と青森山田(中学・高校・大学・出身者)の強さに目を見張りました。とくに男子はそのことが顕著で、上記の男子ベスト4はすべて、ベスト8でも6人が入っています。
 この強い中高生があと5年たつと、どんな選手になっているでしょうか。いままでも日本の高校生は世界的に強く、それから伸びないという傾向が30年以上続いていたのですが、現在の中高生たちはちょっとちがうような気がします。
とくに、男子の丹羽くんは大注目です。彼は驚きの中学生です。まちがいなく「水谷二世」の誕生です。いや、彼のバックハンドをみると、水谷の上をいきますね。伸びシロも十二分に感じます。
将来、松平健太、上田仁、丹羽孝希で、世界の男子を制するのではないでしょうか。そんな夢をいだかせるほど、彼らのプレーのすばらしさに目を見張りました。指導態勢がしっかりすれば、将来かならずこれらの若手選手は世界トップに入るでしょう。「卓球王国・ニッポン」復活も、まんざら夢ではありません。
 
 では、印象にのこったゲームを述べていきましょう。

松下浩二3(-5,8、-8,12,9、-2、-8)4上田仁 
【5回戦】

 今回の卓技研の全日本予想で、上田がベスト4に入ると占ったこともあり、また負ければ現役最後となる松下が出場する試合なので、この一戦を集中して観ました。
 第1ゲームは上田の強ドライブに松下の手が出ず、あっさりと上田が獲ります。でもこのセットの印象だけで、上田が楽勝するとは思えません。そこは百戦錬磨の兵ですから、かならず松下の巻き返しがあるはずです。そう思ったとおり、最初は劣勢だったものの、じわりと挽回して、ついに3-3のゲームオールに。
「浩二のワナに上田がはまっているな……」
 ぼくが座るすぐ近くから、日本ナショナルチーム監督某氏の独白が聞こえてきます。
「うん、たしかに」
ぼくも、こころのなかで、そうつぶやきました。カットマンの本領、ベテランの真骨頂とは、この松下のように、いつのまにか巻き返してしまうことにありますから。
 ファイナルゲーム、2−5松下でチェンジエンドしたあたりから、場内のほとんどの目がこの一戦に注がれ、そのラリーの行方に固唾を呑んで見守っています。ラリー中の水を打ったような静けさが、観客の注目度の深さを物語っているようです。その観衆の一人ひとりが、松下が敗退すれば現役最後の一戦となることを知っているのでしょう。
 ファイナルゲーム、チェンジエンドした次のポイントが勝負の最大の局面であることは先日の「集中論」で展開しました。松下もこのポイントが重要であることを熟知しているのでしょう、上田の猛攻を必死で凌ぎきり、このポイントをしっかりと獲ったのです。
得点は3−5で松下となりましたが、この1得点の威力は大きく、雰囲気はそれまで圧倒的に上田優位だったのが、五分五分というより松下優位に傾きかけたのです。松下がこの1本を獲ったことで、ゲームの流れが一変したのです。
 ここです!
 上田のベンチから「タイム」の合図が。さすがですね。青森山田高のアドバイザー(吉田総監督ではありません)は、ゲームの流れをよくつかんでいます。ここしかないという、最高のタイミングでの「タイム」です。
 そして、タイムアウト後は8-4で上田のリード。そして、次のラリーは今回の全日本を象徴するような激しいラリーの応酬です。それは、卓球の楽しさ、すごさ、すばらしさがすべて凝縮しています。このポイントは松下が獲って、会場は割れんばかりの万雷の拍手。
さらに次のポイント。上田のフォア寄りストップを松下が相手フォアサイドにバックハンド強打。ノータッチで抜いて、会場は拍手とともに、その見事なバックハンドにため息がもれます。この一打は、松下の球史のなかでも、いつまでも記憶にとどまる一打になるのでは……。
結果的に敗戦して、この一戦が松下現役最後のゲームとなったのですが、まだまだ浩二君は強いです。そう思わせるほど、この大会に向けて仕上げてきたのでしょう。卓球プロ第一号として先鞭をつけたからこそ、岸川や水谷などがあとに続くことができたのでしょう。松下浩二の引退に、満腔から拍手をおくりたいとおもいます。


丹羽3(8、13、-9、9、-6、-8、-6)4吉田
【6回戦】

 下山が1ゲームも獲れず負けています。誰に負けたのだろうと対戦者を見ると中学生(青森山田中)の丹羽ではないですか。そして、丹羽はトントンと先輩を破ってランキングに入り、ついにヤマダの大先輩である吉田と対戦することになったのです。
 まず、この対戦結果をごらんください。はい3−4です。ゲームの流れからも、ゲームの内容からも、もうほとんど吉田先輩は負けていました。完全に後輩は先輩を圧倒していました。いやあ、強いのなんの。水谷二世というより、水谷の中学生時よりも丹羽のほうが強いのではないでしょうか。とくにバックハンドは現在の水谷のテクニックよりも上回っています。
 このまま丹羽が成長すれば、日本はもちろん世界チャンプだってけっして夢ではありません。みなさん、丹羽に注目です。

吉田3(−5、9、9、−8、4、−10、−10)4松平(健)【準決勝】
 まず、松平対坂本の一戦から。ゲームカウントは4−2で松平ですが、第1、第2ゲームは松平が圧倒したものの、第3ゲームからは互角の内容。この勝敗と得点差は練習量ではないでしょうか。坂本の練習量が増えれば、まだまだ松平を凌駕する可能性はあるでしょう。
 さて、吉田vs松平です。松平のしゃがみこみサーブとバックハンド強打がよく効きました。とくに、前陣でツッツキを水平強打するバックハンドの威力は強烈でした。
バックスピンをあのようにバックハンドで強打できるテクニックをもっているのは、日本では彼だけでしょう。冒頭でも書きましたが、前陣ではフォアハンドスイングが以前よりも水平になっていますが、彼はフォアだけではなくバックハンドも水平に強打できるのが特徴です。
 吉田も昨年からは確実にキレがよくなり、練習しているなと思わせました。とくにフットワークはすごく、これは捕れないというフォアへの強打も飛びついていました。また、スイングも速くなって、吉田の本領が発揮されていました。
 このゲームの流れからは、完全に吉田のパターンでした。例によって前半はもたもたしていますが、後半しのいで、そのうちに相手が崩れてきてしぶとく勝ち抜くという型にはまったものです。
 最終第7ゲーム、大差で松平がリードしていたものの、後半に吉田が盛り返し、9−9から吉田が獲って、10−9で吉田が最初にマッチポイントを握ったのでした。
やっぱりね。最後は吉田か、と誰もがそう思ったのですが、そこはマツケン。ただの高校生ではありません。バックサイドを鋭角に切るバックハンドで、次の白熱したラリーを制して、デュースから連続してポイントを奪って、大先輩を打ち破ってしまったのです。
 松平がもっともいいのは、前陣で戦えるということです。しかもドライブというトップスピンに頼らず、強打というスピードで相手を翻弄してしまうのです。このプレースタイルは世界でもあまり見ず、世界のトップにも十分に通じるでしょう。
 弱点は吉田のロビングを打ち抜けなかったことに見られるように、パワー不足です。現在のテクニックにパワーが補填されれば、末恐ろしい選手になることは必至です。

※今回はこれにて終了です。岸川対水谷、決勝の水谷対松平など男子の続編と、女子の福原対石川、平野対王輝などの観戦記は次回に……。近日中に発表します。


                     秋場龍一

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