また今年も「全日本」(1月16日〜21日、東京体育館)の開催が近づいてきました。優勝を飾るのは誰か、またどんな選手が活躍するのか、新年早々のたのしみが近づいてきたといってもいいでしょう。
 全日本はNHK(1/21、15:00〜16:30)、スカイパーフェクTV卓球・バドミントンTV752(1/29〜 31、06:00〜12:00、再放送18:00〜24:00)で放送される予定ですのでお見逃しなく。
 テレビ観戦もいいですが、やはり全日本の会場で生で観るのがいちばんです。まだ、全日本を一度も会場で観戦されていない方は、ぜひとも東京体育館まで足を運んで、生の迫力と雰囲気を味わってみてください。

男子優勝者10年間の傾向

 今年の優勝者をうらなう上で、まず過去10年間の男女優勝者を次に挙げてみた。ここで男子の優勝者を見るとき、一つの驚くべき傾向がある。96年度の岩崎以降、昨年度(05年度)の吉田まで、日本出身のプレーヤーで攻撃型が一度も優勝していないという事実である。ご存じのとおり、偉関と吉田は中国の出身であり、日本国籍を取得したことで全日本出場が可能となった。そして、もちろん渋谷と松下はカットマンである。もし、今年も同じ結果だと10年連続で日本出身の攻撃型プレーヤーの優勝者が輩出されなかったことになる。
 全日本はもとより、日本で開かれるどんな大会であろうとも、日本出身者と攻撃型プレーヤーが圧倒的に多い。であるのにかかわらず、ここ9年間にわたって、その日本の大会の総決算である全日本で「日本出身の攻撃型プレーヤー」というカテゴリーに優勝者が入らないということは、明確に日本の卓球界の技術的・力量的現状というものをあらわしているにちがいない。
 それはすくなくとも、「日本国内の指導力」と「攻撃型の技術論」が指摘できるだろう。当サイトの卓技研では、この2点の問題について、単に評論家的な立場からではなく、実践的にアクションを起こしたいと考えている。

[全日本選手権シングルス優勝者]
●1996年度
男子:岩崎清信 女子:小山ちれ
●1997年度
男子:偉関晴光 女子:小山ちれ
●平成1998年度 
男子:偉関晴光 女子:坂田愛
●1999年度 
男子:渋谷浩 女子:小山ちれ
●2000年度 
男子:偉関晴光 女子:小山ちれ
●2001年度 
男子:松下浩二 女子:梅村礼
●2002年度 
男子:松下浩二 女子:梅村礼
●2003年度 
男子:偉関晴光 女子:平野早矢香
●2004年度 
男子:吉田海偉 女子:平野早矢香
●2005年度 
男子:吉田海偉 女子:金沢咲希
 

06年度全日本の展望と期待

【男子】
 まず男子は吉田の3連覇なるかが最大のみどころだが、今年度の注目はなんといっても、日本国籍を取得した韓陽(中国出身)の出場だろう。この2人にベテラン松下を加えて、組合わせにもよるが、この3強がベスト4に残る確率はかなり高いはずだ。ということになれば、冒頭で紹介したように「日本出身の攻撃型プレーヤー」が10年連続で優勝しないということになるかもしれない。
 では、この3人に勝てる「日本出身の攻撃型プレーヤー」は存在するのか? それはドイツ武者修行組の岸川、水谷、高木和、坂本、それに社会人では倉嶋、大森、また高校生では大矢、中学生ではマツケン(松平健太)あたりがピックアップされるだろう。
 この中から吉田、松下、韓の3強を破るプレーヤーが出てきてほしいものだ。では、その可能性が高い者はといえば、水谷、高木和、マツケンの若手3人組ではないだろうか。この3人は、最近の試合を観ていると、まだまだ卓球にノビシロがたっぷりあるとうかがえる。全日本に向けてどれだけ力量をアップさせてくるか期待したい。

【女子】
 女子はずばり平野だ。昨年11月の社会人選手権で優勝した戦いぶりは、03、04年度を連覇したときよりも確実にスケールアップしていた。テレビで社会人選手権を観たが、ボールの待ちかたである「間」がより進化していた。
 彼女のプレースタイルは、現在の日本女子の中で、いまだだれも追究していないハイレベルのものである。ごく大雑把にいえば、平野が追究しているプレースタイルは、中国の王楠、張怡寧 という世界チャンプのそれを継承するものだ。
 そのプレースタイルの特徴は、「間」にあるのだが、攻撃と防御のバランス、フォアハンドとバックハンドのバランスの取り方にあるといってもよい。攻撃と防御のバランスでいえば、平野は攻撃型なので先手攻撃をねらうのだが、攻撃のために「前に出る」という「間」を可能なかぎり抑えて、「前に出る」ことによるミスと相手の攻撃を防御する余裕を得ている。
 これは卓球をある程度上達すると誰もが一度はあたる壁なのだが、攻撃型であれば、上位者ほど攻めがよく、多くの場合攻め負けるものだ。その壁を突破するには、攻め負けないように、相手より速いスピードで、より早く攻めようとする。これはとうぜんのことで、別に問題はない。相手より速いスピードで、より早く攻めようとすれば、「前に出よう」とする意識が強くなる。これもとうぜんのことで、別に問題はないだろう。ところが、なおクラスが高くなると、「前に出る」ことのリスクが急曲線で高くなるのだ。なぜなら、相手もとうぜん攻撃しようとしているからだ。
 「前に出る」一本槍では、ボクシングでいえば、ノーガードで打ち合うことになる。ガードが甘いと、いくらこちらが攻めても、相手のいいパンチをもらう確率が高い。やはりガードして先手攻撃をするのが、どんなタイプのプレーヤーにも戦いやすいスタイルである。
 ここ10年近くにわたって世界女子を席巻してきた王楠、張怡寧のプレースタイルというは、このガードしつつ先手攻撃する、ボクシングスタイルなのだ。実際にゲームをしたことがないので正確に言えないが、王楠、張怡寧と対戦した相手は、おそらく「懐の深い卓球」という印象を持つのではないだろうか。こっちが攻めれば威力あるカウンタードライブを空いたコースに深く突かれ、受けに入れば1本2本ではなく、何本も連続攻撃され、おまけに凡ミスをほとんどしてくれない……。
 そのようなプレースタイルに平野は近づきつつある。昨年は「間」あるいは「バランス」をとることに意識がゆきすぎて、攻めが消極的だったのだが、昨年11月の社会人では、攻めに厚みが増して「攻守」と「フォアハンド・バックハンド」の間とバランスがとても充実していた。今年度(06年度)の女子優勝候補は平野が筆頭だろう。
 平野に抗するのは、やはり昨年の覇者金沢が真っ先に挙げられる。安定感とタフなメンタルは日本女子の中で一番だ。次には愛ちゃんといきたいところだが、福原はその前に組合わせで見ると、6回戦で藤井寛子、準々で藤沼と対戦する可能性が高いが、この二人を破る可能性は五分と見ている。
 福原は世界ランク13位(07/1現在)と日本人としては断トツで高い。しかし、全日本ではベスト8が最高で、「世界には強いが日本では弱い」という逆転現象が起こっている。
 福原のスピード卓球は、日本では通用しにくいと見たほうがいいのではないか。今度の全日本を観てみないと断言できないが、もう一度、プレースタイルはもちろん、フォアハンドやバックハンドのスイングなど、卓球の基本から見直したほうがいいと思う。早稲田に進学し、秋田に練習の場を設けたということは、大学というカテゴリーでの卓球は念頭に入れていないのだろう。世界をターゲットにおくのならば、彼女にとって専属コーチの存在が将来を決定的に左右するだろう。
 心情的には小西のアンちゃんに一度は優勝させたい。昨年も優勝まであと一歩で涙をのみ、また二位になりながら世界団体のメンバーから外れた。小学生のときから彼女のプレーを観ているが、世田谷区の大会では小学生で大学生(2部レベル)に余裕をもって勝っていたことを思いだす。アンちゃん、もっとアグレッシブにいこうよ!
 以上のメンバーに福岡、梅村、樋浦がからみ、若い石垣、照井、石川、宇土あたりが活躍すると、日本女子はピチピチと元気になりそうだ。


                    (秋場龍一)

Copyright Editorial Table Tennis Technique Institute.
All rights Reserved.卓球技術研究所