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【卓技研・速攻ジャーナル】
ジャパントップ12で
藤沼と岸川が優勝!

 藤沼亜衣が2月11日「大林カップ・ジャパントップ12」(国立代々木競技場第二体育館)で優勝しました。第1ステージで森薗、石川、準決勝で渡辺、そして決勝で福原を破ったのです。

 卓技研は、藤沼を全日本女子の優勝候補として挙げたのですが、緒戦で敗退しました。しかし、卓技研では、藤沼のそのセンスは、日本女子のトッププレーヤーのなかでナンバー1であるという評価をしており、そのことを先日掲載の「全日本観戦記4」で述べています。

そういう経緯もあって、今回の彼女の優勝はうれしいものです。この調子で4月の世界選手権もきっと活躍してくれるでしょう。

 また、男子は決勝で岸川が水谷を破って優勝し、全日本の準決勝で水谷に敗れた雪辱をとげました。岸川は攻めが早くなれば、まだまだ大きく伸びるプレーヤーです。世界選手権では水谷と組んだダブルスだけの出場ですが、このペアはベスト4以上、いや優勝の可能性もある力量を備えており楽しみです。

この藤沼と岸川の優勝を称えて拍手をおくります。藤沼・岸川の両選手、おめでとうございます。





ゲームウオッチ
2008年度・全日本選手権【その5】
強いカットマンが急増殖中!

この日の試合を観終えたぼくは、東京体育館をあとにして、JR千駄ヶ谷駅でスイカをチャージし、改札へと歩き始めたときです。
前方から見覚えのある女性が歩いてきます。その顔が目に留まりました。ぼくは思わず、その女性に声を掛けようとしました。
藤沼です。そう、ぼくが今回の全日本予想の優勝候補としてあげた、日立化成所属の藤沼亜衣選手です。
大きなバッグを持った彼女は、一人で券売機に向かっています。顔色はわるく、元気もなさそうです。
それもそうでしょう。昨日、彼女はシングルスの緒戦で負けてしまっているからです。そうすると、きょうは試合はなく、同じチーム選手の応援で東京体育館に来て、その帰りでしょうか。
もちろん、実際には声は掛けませんでした。この場から藤沼選手に、ぼくの気持ちを伝えたいと思います。それは「この緒戦敗戦を糧に、4月の世界選手権でベストの力を出せるように練習に励んでください」というものです。
世界選手権代表を決める選抜トーナメントで1位となったように、藤沼の実力は日本女子のトップクラスです。その卓球センスはトップクラスのなかでもずば抜けています。ぼくは、そう確信しています。
これまで、彼女の前には強固なカベがあって、なかなかそれを打ち破ることができませんでした。しかし、選抜トーナメントで1位となって、新境地を開拓できたのではないかと考えたのです。その期待感が、全日本シングルス予想で彼女を筆頭にあげた理由です。
どんなことでもそうですが、日本で世界でトップに立つには、人にはできない「なにか」が必要なのです。その何かとは、練習時間の長さや特異な技術、明晰な知力かもしれません。とにかく、人にはできないなにかをやる必要があります。
それはなにか、藤沼選手自身、もう一度よく自問することです。もし、それで答えがでなければ、心理カウンセリングを受けることを薦めます。
なぜなら、メンタルに課題があるように思えるからです。彼女の抱える心理的なブロックが打ち破られたとき、そのすばらしいセンスが開花して、すごいプレーヤーになると確信します。
単なるメンタル強化のためのカウンセリングではなく、心の深い領域に対応できる心理学派が彼女には合っているのでないでしょうか。

 藤沼が負けた試合を観ていないので正確なところは書けないのですが、その対戦相手はノーシードから勝ちあがった亀崎遥(早稲田大)というカットマンで、4コロで負けています。
 この女子シングルスで驚いたのが、王輝を筆頭に強いカットマンが増えたということです。6回戦の試合を見渡すと6人のカットマンが試合をしていました。増えたというか、女子で強いカットマンが急増しています。
 その理由はいくつかあるでしょうが、補助剤禁止の影響もあるかもしれません。そうなると、今後は男子でもカットマンが数多く上位に進出してくるでしょう。
また、これまでのパワードライブ隆盛の時代から、スピード&ピッチの時代に移行するかもしれません。その予兆は、男子で2位になった松平健太のプレースタイルです。


亀崎の高速ツッツキに注目
亀崎2(-4、8、9、-10、-4、-8)4石川
【女子シングルス6回戦】

 さて、この亀崎は、藤沼そして越崎を破って、石川と6回戦で対戦したのです。藤沼に勝った相手とはどんな選手なのか、興味をもって観戦しました。
 亀崎はかなり粘り強く安定した守備力を誇る正統派カットマンです。とくに、バックハンドの高速ツッツキがすばらしい。打球点が高いので、対する相手はこのツッツキをドライブしようとすれば、かなりの圧力を感じるはずです。
 またツッツキの打球点が高いと、サイドを切ることが容易となり、相手をツッツキで振り回しやすくなります。さらに、スピードあるツッツキも可能となり、より相手に圧力をかけることができるのです。亀崎の試合を観る機会があれば、ぜひ彼女の「高速ツッツキ」に注目してください。
 亀崎は石川にも、一時はゲームカウント2
-1とリードし、かなり石川を追い詰めました。亀崎に攻撃力が付けば、日本のトッププレーヤーに定着するでしょう。
 いっぽう、石川が手強いカットマンを破ったことに、大きな拍手をおくりたいと思います。以前から述べているように、攻撃マンにとって、強いカットマンとの対戦は、自分の力量をうらなう試金石となります。
 これは藤沼もよく覚えておいてほしいのですが、強いカットマンを打ち破れないのは、その攻撃マンはほんとうの実力が備わってないということです。
 石川はまだまだ若いですし、心技体のすべてを大きくしてほしいのですが、いま一番の課題は、自分から積極的に攻める意識でしょう。ボールを「持って」コントロールする力はすごく、この能力はいままでおさないころから積み重ねてきた練習量の貯金が大きいのでしょう。
 この貯金はもっともっと殖やすことが必要でしょうが、先手がとれる切れ味のよい武器がほしいところです。


福原のバックハンド強打
福原0(-6、-8、-9、-9)4王輝
【シングルス準決勝】

 王輝は坂本、田勢、金沢という強豪を破って、この準決勝に進出してきました。この三者との試合を観ていると、王輝はミスをほとんどしない。いったい、どうしたらミスするのかというくらい、ミスをしないプレーヤーです。そういった点では、正統派カットマンの王道を堂々と歩んでいます。
 日本女子で有力なドライブマンの一人に、豪快なパワードライブの伊藤みどりがいますが、なんといっても、あの独特の伸びるドライブを有する田勢が最有力でしょう。
 ですから王輝対田勢の一戦に注目したのですが、田勢のドライブを一蹴しましたね。圧勝です。もう明確に「格のちがい」を見せつけました。さすがに、元中国ナショナルプレーヤーです。中国には、田勢レベル以上のドライブ力がある選手が何人もいるのでしょう。
 坂本、田勢、金沢を撃破したのを観て、これはやっぱり王輝の優勝はかたいかなという思いがよぎります。正直、福原は王輝の相手ではないとみていました。
 ゲームカウントは0
-4で福原の完敗ですが、3ゲーム以降はかなり善戦したというか、福原が指向するプレースタイルに希望が持てました。
 例によって、王輝は福原のドライブというか、ループにはまったくミスをしません。では、どうやって得点したのか。それはフォアハンド強打とバックハンド強打によってです。
 とくに、バックハンド強打に王輝は手こずったようです。福原のツッツキやカットをバックハンド強打するとき、ナックルが入るのです。ですから、王輝はそのバックハンド強打の多くをネットにかけてしまうのです。
 おそらく、福原のようにナックルが効いたバックハンド強打とはほとんど対戦したことがないのでしょう。王輝をしてもカットでリターンできないのです。
 この福原のバックハンドはカットマンだけではなく、攻撃型相手にも、よく効いていました。たぶん、ラバーとラケットの変更か、バックハンド強打スイングが以前より水平になったかのどちらかです。
 彼女のバック面で使用する表ソフトはナチュラルナックルが出やすいのですが、この表ソフトに水平打法を加味すれば、さらにいっそうナックルが出やすくなるのです。
 ナックルは対応しづらい球種ですが、それでもスピードがなければ、慣れられるにつれ、逆に相手のチャンスボールになりやすいものです。ところが、ナックルにスピードがあると、これは超強力な攻撃となります。
 スピードボールを前陣でブロックするには、ラケットに当ててもそのスピードの威力でオーバーミスが出ます。なので、必然的にラケット角度をかぶせるようになります。ところが、そこにナックルが入ると、打球したのはいいもののボールが落っこちて、ネットにかけてしまうのです。
 パワードライブとナックル強打を比較すると、後者のほうが決定打となりやすいでしょう。しかも、これは対カットマンにも適用できるのです。
 さて、福原はループドライブで少しでも浮けば、フォアハンド強打するのですが、その強打が1本や2本では決まらないです。王輝相手に決まるのは、たとえばバックサイドに2、3本連続で強打して、それを空いたフォアサイドに渾身の力で強打するときなどです。
 しかし、バックサイドに連続して強打する過程で、オーバーミスがよく出ます。ループしかドライブを打てないことは福原の弱点ですが、もう一つ、このフォアハンド強打にも弱点があります。
 それはバックスイングから打撃スイングに入るとき、ラケット面が外側に開いてしまうことです。このバックサイドからバックサイドに強打するとき、面が開くことがすべていけない、と言ってるのではないのです。面が開いていることを彼女が意識しているかどうかです。
 このバックサイドのクロスのコースに、カットボールを強打するとき、面を開いて打つのは、ある面では理にかなっています。バックスピンのそのスピンの威力を、右の選手ならボールの左面をラケットを開いて打つことで封殺できるからです。また、開くことで、相手のバックサイドをより鋭角に切ることもできます。さらに、非力でも、面を開くことで、バックスピンを強打するパワーを補うことができるのです。
 しかし、この面を開くとき、それを意識していないと、オーバーミスが出やすくなります。これはバックスピンだけではなく、トップスピンや強打でも同じです。
 面が外に開くと、ボールのスピンやスピードの威力に負けて、右利き選手なら、その打球が時計回りの回転になって、オーバーミスになりやすくなるのです。
 愛ちゃんのフォアハンド強打はバックサイドのクロス、フォアサイドのクロスにかかわらず、一瞬、ラケット面が外に開くのです。フォアサイドは絶対に開かないほうがいいというのが卓技研の考えですが、バックサイドでも、それが意識しないで開くのであれば、それは弱点となるのです。
 意識して、バックサイドに面を開いて打つのであれば、打球点を高くして、上から打つようになります。そうしないと、面が開いているので、オーバーミスをするからです。ところが、意識しないと、そういう調整ができないので、オーバーしてしまうのです。
また意識しないと、そのミスの原因を正確につかめないのです。オーバーミスしても、「相手のカットのバックスピンが少なかった」というように判断するでしょう。
 もちろん、スピン量は大きな問題ですが、真に問題なのは、自分のスイングに問題があるのです。そう、面が開くという問題です。
 この面が開くというのは、福原だけにかぎったことではありません。強くボールを叩きたいというとき、どうしても無意識的に遠心力を使おうとして、あるいは力んで、身体が開き、左肩が突っ込んだり、アゴがあがったりして、そのために身体が早く開き、結果的に打球時に面が開くという動作が起きるのです。
 野球の投手の話を例に取りましょう。よくプロ野球で、「いま打たれたのは、ボールがナチュラルシュートして、真ん中に入ったからです」と解説者が説明することがあります。これは上記と同じ動作によって、投手に起こるナチュラルシュートです。これは卓球でいえば、ラケット面が開くのと同じことなのです。
 しかし、ナチュラルシュートといっても、シュートを武器とする投手もいます。この投手は、シュートを投げるとき、もちろん意識してシュートを投げます。ですからコントロールが利いて、打者を詰まらせて凡ゴロに打たせることができるのです。
 ところが、ナチュラルシュートというのは、投手が意識しないで、直球を投げようとして、意に反してシュートしまうことです。だから、外角に投げたつもりが、シュートして曲がり真ん中に入ってしまうのです。
 この意に反して真ん中に入るのが、卓球ではオーバーミスというわけです。
 また、面が開く原因として、非力が考えられます。強打するとき、もちろん下半身を十分に使うべきですが、実戦では上半身のパワーだけで打たねばならないことがあります。ですから、上半身の体幹を鍛えることを福原には薦めたいものです。
 このパワーがつけば、王輝レベルのカットマンにも、強打で対抗することが可能だからです。


ナイスゲーム、平野!
平野4(5、-8、6、-5、5、-7、9)3王輝
【シングルス決勝】

 この一戦はNHKのテレビ中継で多くの人が観たでしょう。会場で観たぼくは、平野が優勝を決めた瞬間、泣きそうになりました。平野の、その不屈のがんばりに感動したからでしょうか。
もう、あの試合の流れからいうと、絵に描いたようなカットマンが勝つパターンです。ファイナル、第7ゲーム。ゲームをとる順番からいうと平野ですが、ファイナルとなると、圧倒的にカットマンが有利になるものです。ですから、ぼくはこの試合のヤマは第6ゲームにあると、第5ゲームが終わったときに読んだものです。
その読みは両ベンチとも同じで、第6ゲームに両者ともタイムアウトをとりました。どちらも、このゲームが勝負とみたのです。ですから、このゲームを王輝が獲った時点で、勝利の軍配は王輝に傾いたと思いました。
事実、王輝は最終ゲームを終始リードします。ところが、磐石にみえた王輝に、一瞬の綻びが生まれたのです。そう、鉄壁のカットに、勝ちを意識するスキができたのです。
大量のリードはその一瞬の綻びによってたちまち逆転につながりました。土壇場にきて、9
-8と平野がはじめて、このゲームをリードします。
そして、次のポイントのラリー中です。
副審の「タイム!」
ここでこのゲームに入って10分がたって、促進ルールが適用されたのです。サービスを持ったほうが、13回のラリー以内に得点しないといけません。
促進ルールは、攻撃型対カットマンの対戦で、どちらに有利に働くのか、あまり観たことがないのでどうなるのか判断がつきかねます。しかし、促進ルールを予測して、対カットマンの練習を積んでいれば、それは攻撃型有利になることはまちがいないでしょう。
タイム後、あらためて平野のサービスです。平野は13本以内に決めることを意識したのか、このポイントはあせったようなミスをします。
これで9
9のイーブン。サービスは王輝です。カットマンが攻撃型相手に13本で決めるのはどうすればいいのでしょうか。そう思いながら、次のポイントになります。平野がドライブ、王輝がカットで確か9回のラリーまできたとき、王輝にミスが。13回に近づいてくるにつれ、王輝にあせりが出るのも当然かもしれません。
10
9になって、またサービスが交替して今度は平野です。レシーバーの王輝が有利ですが、最後はそのメンタルの微妙な差が出て、平野の逆転優勝です。
並大抵の精神力では、あのゲーム展開で、あれほど強いカットマンに勝つことはできません。ぼくは、平野のその気持ちの強さに、満腔から拍手をおくります。
ナイスゲーム、平野!
日本女子でカット打ちのもっとも得意なのは、それはまちがいなく平野でしょう。しかし、正直なところ、6対4で王輝が勝つと予想していました。それほど、王輝のカットは安定していたのです。
テレビでしか王輝の試合を観ていない人はそうは思わないかもしれませんが、この決勝までの戦いぶりは、まったく微塵の危うさもありませんでした。相手がドライブをかけてもかけても、すいすいとカットで難なくリターンしていたからです。
では、平野はなぜそれほど難攻不落のカットのカベを打ち破ることができたのか? それは、平野本人も試合後にこたえているように、「練習時間だけはだれにも負けない」というように、もう練習量の豊富さとしか考えられません。
平野の対カット攻略は、ドライブでの粘りです。もちろん、ドライブするコース(左右・長短)や、トップスピンの回転量の強弱もつけますが、ドライブで何十本でも返す持久力です。
普通は、この持久力戦になれば、カットマンに有利に働くのですが、平野はそのカットマンの有利な態勢になっても、いやむしろこの態勢こそ、彼女の望むところなのです。
ただ、あえていいたいのですが、やはり対カットマンでは、ドライブだけではなく強打も欲しい。王輝との一戦でも、ほとんど強打がありませんでした。たとえカットが浮いても、強ドライブしかないのでは、やはり苦しいものです。もし、強打が打てれば、もう少し楽に王輝に勝てたでしょう。
北京オリンピックで、韓国のキム・キョンアに敗れたことを思い出してもらいたいところです。キムに勝つには、強打が絶対に必要でしょう。
そして、ドライブのパワーも増す必要があるのではないでしょうか。そろそろ、フィジカルトレーニングを考慮に入れてもいい時期にきているのではないでしょうか。
いま思い出しましたが、攻撃型との対戦で、平野のドライブが相手コートで、よく落ちるのです。ドライブはすべるように落ちることはよくありますが、女子で平野ほど落ちるドライブは見たことがありません。
ドライブがバウンドして落ちると、まずリターンできないものです。なぜなら、まず落ちることで、空振りが多くなること。さらに、落ちると判断した瞬間、無意識的にラケット面を上げてボールを持ち上げようするので、たとえそのボールに当てることができても、面が上を向いて打球することになるので、ドライブのトップスピンによってオーバーミスしてしまうのです。
おそらく、落ちるドライブを意識的に繰り出すプレーヤーはいないと思うのですが、(いたら教えてください)これからは意識的に落ちるドライブを打つ技術が発展するのではないでしょうか。

以上で08年全日本選手権の感想記を終わります。日本の卓球が大きく変わる、その兆候がはっきりとでた大会でした。
観戦記を書く視点ではなく、純粋に一人の卓球ファンとしても、大いに楽しめた今年の全日本でした。
最後に出場したすべてのプレーヤーと、この大会を運営したすべてのバイプレーヤーのみなさんに感謝します。
    


その1
その2
その3
その4

                     秋場龍一

全日本選手権
18年度 全日本 予想
18年度 全日本 観戦記
19年度 全日本 予想
20年度 全日本 予想
20年度 全日本 観戦記 その1
           その2
           その3
           その4
          


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