ゲームウオッチ
2008年度・全日本選手権【その4】

福原対石川ドリームマッチついに実現!


福原のループの弱点を読みきった
平野・石川ペアの作戦勝ち
平野・石川3(7、8、9)0福原・照井
【女子ダブルス決勝】


  全日本女子の観戦記をお届けします。
 まず、女子ダブルスの決勝について。平野・石川組と福原・照井組の対戦ですが、ゲームカウントは3−0で平野・石川組がストレートで破っています。 
第1ゲームは(11−7)、第2ゲームは(11−8)で、終始、平野ペアが優勢に進めて獲りました。第3ゲームに入ると福原ペアが優勢となったものの、終盤に接戦となります。そして、このゲームのポイントは福原のドライブの弱点を平野ペアがしっかりと読みきったところにありました。
 第3ゲームのカウントは9−9。サービスは石川、レシーブは照井です。
石川のショートサービスを照井は平野のバックサイドにツッツキ、これを平野が思い切りガツンと切ったツッツキでリターン。観客席からも、はっきり切ったのがわかりました。かなりバックスピンをかけて、福原のバックサイドへ。 
それを福原は回り込んでフォアハンドドライブ。しかしそのツッツキのバックスピンの威力に負けて、持ち上がらずネットを越えずミス。
これで10−9となり、平野ペアがマッチポイント。
福原はドライブが持ち上がらなかったために、ドライブの素振りを2度ほど繰り返します。
この福原の様子を平野と石川はしっかりと見ていたはずです。
ふたたびサービスは石川で、例によってショートサービス。照井は平野のバックサイドへツッツキでレシーブ、平野はそのボールを福原のバックサイドへツッツキ。まるで、前のポイントを再現したような、まったく同じ展開です。
そのボールを福原は、またしても先ほどと同じく回り込んでフォアアンドでドライブ。今度はネットを越えました。しかし、山なりのループ。このボールを待ってましたとばかりに石川が強打して、それが見事にきまります。
ゲームオーバー。二連覇をねらった福原・照井組は破れ、平野・石川組の初優勝です。
おそらく、平野ペアは福原の弱点をつかんでいたはずです。そう、あのループドライブです。福原がツッツキをドライブするときは、ほぼループです。あまり威力あるループには見えません。それをねらわれたのです。
昨年か一昨年の当サイトに、シングルスの対福原攻略として、福原のフォアサイドにバックスピンのよくかかったツッツキを深く入れれば、かならず山なりのループでリターンするので、それをねらえばいいと書いたことがあります。フォアサイドとバックサイドのちがいはありますが、福原のドライブはいまだ修正されていないことになります。
バックスピンがよくかかった深いボールは、福原でなくても、それを威力あるドライブでリターンするのはむずかしいものです。しかし、日本のトップレベルにある福原にとっては、このポイントがあまりにも「アナ」なのです。しかも、それが彼女の試合を観ていると、もうあからさまに露呈しているのです。  
もともと、福原はそのプレー、それにメンタルも、観ていて非常にわかりやすいプレーヤーなのです。技術的な長所と短所、ゲーム中の心理状態も、観客席で観ていて、手に取るようにわかります。これは対戦相手やそのアドバイザーにも、もちろん同じことでしょう。
愛ちゃんの人のよさが出てしまうのかもしれません。でも、試合では「人のよさ」は致命傷になります。レベルが接近しているどうしの対戦で、相手に技術や心理を読まれたら、もう絶対的に不利です。
さて、よく切れたツッツキをネットにかけてしまったので、今度は同じミスを繰り返さないようにドライブの素振りをした福原です。でも、こんなところを対戦相手に見せてしまっては、次に同じボールがきたら、ドライブで、しかもこの福原の心理状態からループが来るのはもうまちがいないと読みきられてしまうのです。
スピードドライブがない福原が、切れたツッツキをドライブでネットミスして、それを今度は入れようとすれば、とうぜんドライブスイングは、より真上方向になります。そうすれば必然的に山なりのループになることはだれでもわかることです。
こういうことを平野と石川を理解したうえで、平野はよく切れたツッツキをバックサイドに、そして石川はループを予期して待ち受けたのです。結果的にまんまとこの読みは的中したわけです。
このペアが対戦する前に、すでに翌日のシングルスの準々決勝で福原と石川が対戦することが決定しており、このダブルスの決勝は、いわばこの対戦の前哨戦と位置づけることもできます。
福原のループをねらい打つ石川のたたかいぶりを観るにつれ、翌日の対戦では、これは石川優位かなという思いがちらっとかすめたものでした。


技術的精神的に一回り大きくなった愛ちゃん
福原4(6、8、9、9)0石川
【シングルス準々決勝】

 この一戦は、卓球界が待ちに待ったドリームマッチです。現在の卓球人気はやはり愛ちゃん人気に大きく支えられています。そして、石川は「愛ちゃん二世」と呼ばれ、その人気と実力とも福原に迫る勢いです。
 先輩の福原としては、そのキャリアから「勝って当たり前」のような雰囲気があって、かなりのプレッシャーを受けるのはとうぜんのところです。前日のダブルスの内容もあって、これは愛ちゃん、ちょっとやばいなと、福原の苦戦を予想していました。
 ところが、この石川との対戦を前にして、プレスからのインタビューに福原は「挑戦者のつもりでたたかう」とこたえたのです。なるほど。ぼくは、福原のこの言葉に、愛ちゃんの成長を確信しました。愛ちゃんも、もう二十歳です。去年までの愛ちゃんとは、明確にちがうのです。
 たとえ後輩であろうが、キャリアは少なくても、受けて立ってはいけないのです。彼女が述べたように、いつだって挑戦者の気持ちでたたかうことが大切なのです。そして、このことはどんなレベルのどんな大会であろうとも、普遍的なことなので、読者はよく覚えておいたほうがいいでしょう。

 1月17日土曜日。午前10時。東京体育館センターコート。
4台の卓球台で、一斉に準々決勝が始まりました。
この会場を包む空気は、これまでの大会とは異なっています。観客もプレスも、大会役員、審判団、そして選手たちも、この一戦に期して深く集中していることが、このような静謐なる場を醸しているのでしょう。
 さて、福原と石川の対戦。結果的に4−0で福原のストレート勝ちですが、ゲーム内容もメンタルも、福原が地力のちがいをはっきりと見せ付けました。展開は速いピッチのラリー戦となることが多く、観ていてもかなりおもしろいものです。
 石川は左利きですから、福原は石川のバックサイドに多く球が集まります。石川のバックサイドと福原の全面というラリー戦となるのですが、福原が機を見て石川のフォアサイドへまわしたときが勝負で、このボールに石川の反応が遅く、ミスを繰り返します。
石川のバックハンドからのフォアハンドへの切り替えの技術が弱いことを福原が鋭く突いたのです。
 石川が有利となる展開は、やはりあの前日のダブルスで示されたように、福原のあまいループをカウンターで強打するときです。福原は石川のバックサイドへループしますが、これをクロスにバックハンドでカウンター強打して、一発で福原を抜いてしまうことが何度かありました。
 福原を観ていて、あのようなイージーなループを打ったら、カウンターでやられるのは明らかなのに、何度もそれを繰り返していたのはいただけません。
これは読者にも知っておいていただきたいのですが、ここはもう目茶苦茶強いというポイントを持っている選手がいます。初めて対戦する相手だから、わからないこともありますが、そのような相手のスーパー・ストロング・ポイントは、一度は仕方ないにしても、つづけて二度も食らったらわかるはずですから、そこは避けるようにすべきです。 
わざわざ、相手の超得意なコースや球種を配球する必要はなく、それ以外の選択肢はあるはずですから。
大相撲でいえば、大関の魁皇は左手が尋常ではなく強く、左四つになったら横綱も倒すほどです。だから魁皇と対戦する力士は、たとえ朝青龍、白鵬といえでも、魁皇には絶対に左を差させないようにするものです。

このゲームは終始、福原が優勢で進めていましたが、山場となったのは第4ゲームの終盤です。福原が大きくリードしていたものの、石川が次第に挽回、福原9−7でサービスをもったときです。
福原の勝利は目前です。とうぜん、ここへきて勝ちを意識します。ところが、次のポイントを獲られ9−8。サービスを持っている次のポイントは是が非でも獲りたいところ。
そこで、福原が繰り出したサービスが、石川のフォアサイドへのスピード系ロングサービス。意表をついた奇襲です。ところが、これがなんとオーバーミス。実に痛いところです。
しかし、ぼくはこのサービスミスをよしとしました。なぜなら、この奇襲サービスは、点が欲しいという弱気から出たのではなく、この場でもっとも効果的なサービスを選択して、そのうえでのミスだと見たのです。強気というか、積極的な攻撃をサービスから仕掛けたと思ったのです。であれば、このサービスミスは、福原に大きな動揺はないはずです。
案の定、福原は9−9のタイから、これまでと同じようにプレーして、2本連取、後輩ライバルの挑戦を退けたのでした。
石川は試合後、「愛ちゃんはプレッシャーがあるのに緊張した様子はなく、逆にわたしが緊張してしまった」という趣旨の言葉を残しています。後輩が逆に意識してしまったというわけです。
このゲームで、石川は大切なことを学んだはずです。技術的にはバックハンドからフォアハンドへの切り替えに問題があることは前述したとおりです。もう一点、大切なことは、自分から仕掛けてゆく技術力とその意識です。
福原にはラリー戦で破れたものの、バックハンドのカウンターやボールを「持つ」技術は飛びぬけています。ただ、先手を取る、たとえばフリックやドライブなどをもっともっと磨く必要があります。
今年は横浜で個人戦が、来年は団体の世界選手権がありますが、その団体のレギュラーメンバーは平野、福原、王輝、そして石川が入る可能性が濃厚です。この面子なら、中国に対抗するのはまだおよばないとしても、シンガポールや香港、韓国には十分に勝てる気がします。石川は左ですから、団体のダブルスにも打ってつけです。
石川は日本女子のトップ3に入る気概で頑張ってもらいたいものです。

さて、福原ですが、プレーが大きくなったこと、それにメンタルが相当たくましくなりました。北京オリンピック後、この全日本に向けて、課題克服の練習を十二分にこなしてきたのでしょう。
問題点は、王輝と対戦した観戦記で指摘します。きょうのところは、ドライブと強打に問題点ありとだけ述べておきます。

※次回は全日本観戦記の最終回です。女子シングルスの決勝戦およびその他の模様を近日中に掲載します。
    


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                     秋場龍一

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