アドバイザーとはクリエイターである!

心はホット、頭はクールで、
ゲームの「大局」をつかむ


試合のアドバイスについて、「指導者から選手へ」と「選手から選手へ」する場合、どうしたらいいのか、という質問が相次いで寄せられました。
そこで、今回の「指導者論」は、アドバイスについて、指導者の立場と選手の立場から展開してみました。

Q はじめてメールさせていただきます。ハンドルネーム「燃える卓球兄さん」と申します。秋場さんの著書とホームページを拝見し、いつも参考にさせていただいております。有難うございます。
私は現在、縁あって中学校の女子卓球部の外部コーチをしています。日々頑張っている子供たちの力になれればと思い、秋場さんの著書を読んで勉強しながら指導を行っています(主に土日が中心)。

さて、質問の内容は試合中のセット間のアドバイスの送り方についてです。セット間は約1分間ほどしかないので、的を絞ってアドバイスをしたいのですが、自分があれもこれもと言い過ぎてはいないだろうか、そのために子供たちを混乱させていないだろうかと悩んでいます。

現在自分がしているアドバイスは、最初に技術面(相手の弱点、作戦の組み立て方)のアドバイスをして、次に大丈夫だという風に励ましてから次のセットに向かわせていますが・・・。アドバイスを送る際はどこに焦点を絞って行うべきか、注意すべき点はどこか、秋場さんのお考えをお聞かせ願えますでしょうか。

A 試合のアドバイスは、そのチームの監督やコーチにとってやりがいのあるエキサイティングな時間ではないでしょうか。なぜなら、試合は選手たちのたたかいと同時にアドバイザー同士のたたかいでもあり、アドバイザーの力量が試合に決定的な影響を及ぼすこともよくあることです。
団体スポーツのサッカーや野球、バスケットなどは、監督のアドバイスが試合を左右するかなり大きなウエイトを占めています。しかし、個人スポーツの卓球は、いざ試合が始まってしまえば、ゲーム間(セット間)とタイムアウトの1分間しかなく、団体スポーツと比べると、そのウエイトの小さいことは否めません。
しかし、1分の短い時間のアドバイスひとつが、ゲームを決定的に左右することもあるわけで、アドバイザーの真価が問われるところです。

さて、アドバイスのポイントですが、質問で述べておられるように「的を絞る」ことが最も重要となります。時間はたった1分ですから、多くのことを話すことは無理です。また、多くのことを指示しても、それを理解し、すべて実践することは難しいでしょう。

「的確なアドバイスを短い言葉で伝える」こと。

これがまず、アドバイザーの基本となります。では、なにをどのように伝えればいいのか、具体的にみてゆくことにしましょう。
まず、アドバイザーは試合を観るとき、かなりクールな状態に自分を置いておくことが大切です。「勝ち負け」ではなく、「試合そのもの」を見つめることです。勝ち負けにあまり固執しすぎると、選手が萎縮したり、プレーが小さくなりがちです。また、勝負にこだわりすぎる指導者が率いるチームは、選手がプレーを楽しめず、逆に接戦で弱い選手を輩出しがちです。

ここが大切なのですが、指導者が選手を見ているように、選手も指導者を見ています。指導者は、大きな器で、しっかりとした人格があってはじめて、選手に信頼が生まれ、そしてそうであることで、アドバイスを聴く耳ももってくれるのです。ですから、ふだんの練習から、指導者の「アドバイスの力量」は生徒たちによって試され蓄積されているといってもいいでしょう。

アドバイザーの仕事は、試合をしている選手本人が気づかないことを、アドバイザーが選手のかわりになって発見する作業です。アドバイザーは、勝とうと燃える熱いハートは必要ですが、もう一方、頭の部分では、冷静に試合の大局を読むことがそれ以上に大切なのです。

「心はホット、頭はクール」そして、
「ゲームの大局をつかむ」。
これが試合に臨むアドバイザーのスタンスです。

その試合によって、そのセットによって、アドバイスするべきポイントは大きく、あるいは微妙に違ってきますから、まずその大局をしっかりとつかんで、次のセットに向けてなにをするべきかをクールに分析します。

アドバイスが大きく試合に影響をあたえるのは、やはり実力が伯仲した競った試合ですから、こういうケースについて考えてみましょう。
競った試合でも、多くの場合、「キーポイント」があるものです。たとえば、9ー11で負けたとします。その11点失ったなかで、レシーブミスが5本以上あったとします。
こういう場合は、もちろんレシーブミスが「キーポイント」となります。このレシーブミスが、次のセットで仮に2本になったら、勝てる確率はかなり大きくなるわけですから。
まず、その事実を選手にはっきりと伝えます。こういうケースは非常にわかりやすいですが、このようなゲームに大きな影響をあたえている「キーポイント」を見つけ出すのです。
まあ、5本もレシーブミスをすれば、ほとんどの選手は「キーポイント」であることを理解していますが、中学生以下で試合経験のすくない選手は、こんなケースでも理解していないことがあります。

「大局」といっても、以上のような戦術面だけではありませんが、実力が伯仲した競った試合では、3本以上獲られた「キーポイント」をしっかりと見つけ出すことです。
先ほどのレシーブミスのほか、たとえば相手の3球目ドライブ攻撃やツブ高のナックルボール、カットマンのぶつぎりカットをドライブでリターンできない……などなど、試合毎に異なる千差万別のいろんなケースが想定されますから、「キーポイント」を発見して、それを選手に指摘し、その対処法を的確にシンプルに伝えるのです。

シンプルに伝えるとは、日ごろの練習でできない技術や戦術ではなく、その選手の実力に合って、しかも簡単な方法をいいます。
たとえば、レシーブミスの場合なら、相手のこういう種類のサービスにこういうラケット角度でリターンしていたのでミスがしたのだから、今後あのサービスがきたら、こういう角度で返そうーというように、具体的にわかりやすく指示します。場合によっては、ラケットを持たせて、「こういう角度」と示して、実感させてもいいでしょう。

あるいは、たとえばカットマン戦で、フォア面が裏、バック面がツブ高で、そのバックのカットがものすごく切れていて、味方の選手がドライブしてもネットにかけてしまう場合を考えてみましょう。
これは実戦でよくあるケースで、その対処法も何種類もありますが、その一例として、バックへドライブすることはやめて、フォアサイドだけにドライブするようにして、強ドライブだけをバックに打つように、などときわめてシンプルな戦術を指示するのです。
そして、もしそのバックへの強ドライブがリターンされたら、ドライブではなくストップで対応して、そこからもう一度、フォアへドライブで攻めるということを繰り返す、ということも付け加えます。
このようなアドバイスはもちろん、その選手の力量に応じたものでなくてはなりません。選手によっては、そのぶつぎりのバックカットのドライブ法をレクチャーすることや、あるいはカット打ちはやめて、ツッツキから攻めて、カットで返球されれば、もう一度ツッツキから同じ攻撃を繰り返すなどのように。
、その選手の性格、タイプに応じて臨機応変なアドバイスを出すこと、そしていずれの場合も、選手に理解される明確な作戦をシンプルに伝えるようにします。

つぎに、今度は11ー9で勝った場合を想定しましょう。先程の例とは逆にサービスで5本獲ったとします。そうすると、相手はサービス対策、つまり先程のこちらと同じようにレシーブミスをしない対策をしてくることを考えなければなりません。
こういう場合は、まずこちらのサービスが効いていることを指摘します。そして、そのサービスを効果的に使うように指示するとともに、相手が対策を立てて、そのサービスが効かなくなることがあることも想定しておくように言います。
もちろん、1セット目で効いたサービスは2セット目も出してみて、もしまだ相手がミスするようなら、より効果的にどんどん使かうべきでしょう。そして、それが効かない場合をあらかじめ想定して、次の対策もとっておくことが大切です。1セット目で効いたサービスが2セット目で効かなくなることを考慮して、そのためのサービスの配球パターンも指示しておくわけです。
1ゲーム(セット)を獲ると、次のセットも同じように勝てると思いがちですが、多くの場合、相手は技術面・戦術面・メンタル面など対策を立てて向かってきますから、そのことを十分に考慮するべきです。

実力が伯仲した競った試合でセットごとに勝負が入れ替わることが多くなるのは、1分間のアドバイスタイムでのゲーム分析と対策の影響が大きいからです。多くの試合が11本5ゲームマッチですが、21本から11本にルール変更になってから、少々実力に開きがあっても、強い者が1ゲーム(セット)を簡単に落とすことがあります。
まあ、ゲームの流れで1ゲームを落としてしまうことがあります。しかし、それがもう1ゲーム落として、2ゲーム獲られてしまうと、いくら実力上位といってもあせりが出たり、ゲームの流れに抗しきれず破れてしまうこともあります。
ですから、自チームの実力上位の選手がもし1ゲームを落としたら、油断させないで、とくにメンタルにしっかりと活をいれてゲームに送り出すようにします。

試合に臨む気持ち次第で、ゲーム内容にかなり大きな開きがでます。ほとんどの選手は「勝ちたい」と思っていますが、たんにボーっと勝ちたいではなく、「勝つんだ!」という強い気持ちで試合のスタートから臨むことが大切です。ですから、そのことを指導者はよく言い聞かせておくようにしましょう。

アドバイスするとき、監督やコーチだけではなく、応援の選手が口を出すこともあります。これはあらかじめチーム間の約束事として、技術面や戦略・戦術などのアドバイスは、監督やコーチだけがすることにして、選手はこれらにはアドバイスしないようにしたほうがいいでしょう。
なぜなら、たとえば監督がフォアを攻めろと指示しているのに、応援の選手がバックを攻めろと言ったら、試合をしている選手は混乱してしまいます。まして、アドバイスした選手が上級生だと、なおのこと選手はどちらの指示に従えばいいのか迷います。
まあ、これは団体スポーツでは当たり前のことですが、卓球ではそうなっていないこともあるようです。たとえば、野球で監督がバントのサインを出したのに、ベンチの選手が打てのサインを出すなんて考えられないでしょう。でも、卓球の中学や高校の大会などでは、これと同じようなことをやっている光景をよく目にします。
ですから、アドバイザーとして監督やコーチがいる場合は、他の応援の選手は技術や作戦面などは口出ししないことを決めておくようにしましょう。選手たちは、もっぱらメンタル面で激励するようにすればよいでしょう。
ただし、青森山田の吉田総監督が述べておられましたが、応援している選手が全員で相手の弱点を見つける学校もあるようです。これは一定の条件が付けば問題はなく、むしろ応援している選手に、試合を客観的に分析する力が身に付く練習にもなりますその条件とは、応援の選手が直接、試合をしている選手にアドバイスしない、ということです。その相手の弱点を応援の選手が発見したら、そのことを監督に伝え、もしそれが有効だと監督が判断したら、監督の口からアドバイスすることです。このように、アドバイスを選手にするのは監督、とチームで統一しておいたほうがいいでしょう。

先程、練習でできていないことを試合でやれと言ってもできない、と述べましたが、選手によっては逆に、日ごろできないことを試合で実践させることもあります。
たとえば卓球センスがよくて運動神経もよい。しかし練習時間があまりとれていない選手が試合に出て、競ったゲームを展開しているとします。
もちろん、こういう場合でも「大局をつかむ」ようにするのですが、仮にもうすこしドライブの回転量が多ければ楽に勝てるというケースでは、試合中の1分間のアドバイスのなかで、「技術指導」をしてもかまいません。もちろん、センスがよく、運動神経もよく、こちらの技術アドバイスを理解して、それをすぐに次のセットからできると判断した場合という条件付です。
こういうケースでは、むずかしい技術アドバイスはしないで、たとえばドライブスイングのとき、利き腕と反対側の脚のひざの開きが早いのなら、もう少し開くのをがまんしろと言うのです。もし、ひざを開くのを一瞬でもがまんできたら、この選手のドライブの回転量は確実にアップするという確信があって、しかもそれができると、相手選手のドライブリターンがオーバーすることを見越してのことです。
そして、アドバイスを受けた次のセットで、ひざの開きをがまんした(つまり下半身のウエイトが乗った)ドライブを打つことができ、そのドライブボールにたいして相手は前のセットでは確実にリターンしたのに、このセットではオーバーミスを連発して、簡単にこのゲームを勝ってしまったとします。
そうすると、このアドバイスした選手はドライブのコツを試合中に身に着身につけたと同時に、アドバイザーの信頼度が高まったことはまちがいありません。こういうケースは、指導者にとって、アドバイザー冥利に尽きますね。

あるいは、たとえば対カットマン戦で、「よし、次のセットは、勇気をもって、相手コートに深いドライブをかけよう」ということもあります。深いドライブはオーバーミスが怖くて、なかなか試合では打ちづらいものですが、相手カットマンもなかなか手強くて、ほかに打開策が見つけられない場合は、「深いドライブを」などの戦術を指示することも必要となります。そして、このような場合は、「勇気をもって」という言葉が重要な意味をもちます。
試合をする高校生以下の子どもたちにとって「勇気」という言葉は、大人が考える以上に重いのです。「そうか、勇気があれば、深いドライブを打てるのだ」と思わせることです。
また、数ある試合のなかでは、「粘りあい」になることがあります。こういうケースでは、たんに「粘ろう」よりも、「相手が100本返したら、こっちは101本返そう」と言うような言葉を使うことが大切です。粘りあいということを自覚させて、粘るための覚悟を決めさせるのです。苦しい粘りあいをやり抜くんだという、「胆を決める」言葉を的確に使うのです。
アドバイスする言葉をよく吟味して、選手の心のなかに深く伝わるキャッチコピーを案出することがアドバイザーの重要な仕事です。そういった意味で、アドバイザーは極めてクリエイティブな作業なのです。

【選手がアドバイスするとき】
Q こんにちは。初めて質問をさせていただきます。高校2年生、HNは双葉と申します。
団体戦など、味方の試合でうまくアドバイスをすることが出来ません。試合のレベルが自分のレベルより高いと感じたとき(例えば、先輩に対してアドバイスするとき)が特に苦手で、ほとんど何も言えないこともあります。自分としては、原因は試合の見方にあると思うのですが、どのようにしたらいいのかわかりません。何が足りないのでしょうか。
後輩も入ってきて、このままではいけないと思い、質問させていただきました。よろしければ、ご教示くださいませ。


A 監督やコーチなどがアドバイスできないこともあり、どうしても選手がアドバイスしなくてはならないケースが出てきます。とくに、自分よりも技術力が高い選手へのアドバイスはなかなか難しいでしょうね。まして、先輩となれば遠慮もでてきますから、なおさらです。

試合においてアドバイザーの言葉はかなり重要です。ひとことのアドバイスで、負ける試合を勝つことも、またその逆もあります。

アドバイスのポイントは次のように分けることができます。

1.味方への技術的アドバイス
2.対戦相手の長所短所のなどの分析
3.コースの選択、サービスの種類、攻撃的にするか守備的にするかなどの作戦
4・弱気になっているとか、打ち気にはやり過ぎているとか、メンタルでの指摘

アドバイスをする場合、冷静に集中して観ていると、以上にあげたどのポイントを主にアドバイスすればいいのかわかるものです。技術的にどうしても自分ではアドバイスできなければ、2、3、4、に的をしぼり、1はしなくてもいいでしょう。

試合会場で選手がアドバイスしている声が聞こえてくることがあり、その中には技術的なことで、できもしないことを「やれ」と言っていることがあります。まあ、その技術が使えればそれにこしたことはないのですが、試合の場で急にいままでやったこともないことをやれと言ってもそれは無理な注文で、試合中のプレーヤーが混乱するだけです。

ただ、選手によっては、この試合で技術的にレベルアップさせるために日ごろやっていないことをさせる場合もありますが、それはかなりキャリアのあるアドバイザーでなければできません。

ただし、アドバイスするということは、試合を分析する力を養うことになり、これはプレーヤーとしての自分が上達する絶好の訓練でもあるのです。上手な選手は、試合を客観的に分析するという力も優れているものです。ですから、1のテーマにも逃げないで自分の練習だと考えて試合を分析するようにしたいものです。

もうひとつ、頭ではクールに分析しながら観戦しなくてはなりませんが、心では試合をしている選手と同じ気持ちになって、精魂込めて拍手し、激励してあげることは大切です。(もちろん、アドバイザーが声を出すのはルール違反です)

これはお互いさまで、自分も試合に出ればアドバイスを受けるわけで、自分の試合にしっかりとアドバイスをもらおうと思えば、やはり自分がアドバイザーのときは誠心誠意アドバイスするようにすべきです。結局、すべて自分にかえってくるわけですから。
卓技研・秋場

Copyright Editorial Table Tennis Technique Institute.
All rights Reserved.卓球技術研究所