技術論 ハイブリッド of 卓球技術研究所t3i

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技術論 
時代はハイブリッド・タクティックスへ。
その1

卓技研は、技術論はもちろん、
ウェブ展開においても充実させるプランをもっています。
日本の卓球をもっと強く、
そして卓球そのものを
より醍醐味のあるボール・ゲームに進化させたい――。
この願望を具体化する年にしたいと決意しています。

さて、ことし第1弾の「技術論」は
戦術・戦法、プレースタイルといった
カテゴリーに関することです。
すでに当ウェブで連載中の小説『月とうさぎと虹のスマッシュ』で、
荒神コーチ、そう通称アラシは
「ハイブリッド戦法」の「大風呂敷」をひろげていますが、
卓球戦法にハイブリッドの時代が来ることは、
小説というフィクションの世界に限定されているわけではありません。
リアルな卓球の世界においても、
それはもう必然というか
既定の事実として認めざるを得なくなっています。

では「ハイブリッド・タクティックス(HT)」とはなにか?
それは広義では、
個々のプレーヤーのプレースタイルに
新たなプレースタイルをプラスアルファすることです。
主戦武器をもう1つもつことです。
自分の切り札、エースをもう1枚加えることです。
そうすることで、
2倍をはるかに超える効果を生むのです。
いや、そうしないと、
ゲームで勝つことが困難になる
と表現したほうがいいかもしれません。

すでに世界のトッププレーヤーは
HTを指向しつつあります。
物語のなかでアラシが語る世界卓球情勢分析は
極めて現実的なことなのです。
こういうことを述べると、
それはトッププレーヤーの話で、
われわれの卓球とは関係がない、
レベルがちがう、と思われるかもしれません。
しかし、けっしてそうではないのです。
世界トップのありとあらゆる動向は、
わずかに時間を必要とするものの、
それは上位から底辺へ、
あまねく、そして速やかに浸透するものなのです。
それはこれまでの卓球の技術史が実証しています。

たとえば、ループドライブは、カーブロングは、
バックハンド・ドライブは、裏面打法は、
チキータはどうだったでしょうか?
以上の打法や技術が、
はじめから卓球の世界に存在していたわけではありません
私はこれらの打法や技術が
初めて登場してきたときの光景をおぼえていますが、
それを初見したときは
「すごい打法だ」とか「むずかしそうな技術だ」、
あるいは「こんなことはとても中学生にはできっこない」
と思ったものです。
ところが、それから1年から2年すると、
もう中学生はおろか小学生も
平気で普通に試合で使っているではありませんか。
最初は「超難度」に見えても、
それを1度でも見たり、体験すると、
それは時間の経過とともに、
あっというまに「日常的次元」「一般的レベル」として
定着してしまうようです。

ではもっと具体的に
「ハイブリッド・タクティックス(HT)」を説明しましょう。
いま、もっとも多いプレースタイルは
「シェーク裏+裏ドライブ攻撃型」でしょう。
おそらく日本の卓球界でも、
このスタイルは40代以下では
80パーセントを越えています。
たしかにこのプレースタイルは優れたものです。
なんといっても、
その主戦であるドライブは
どんな打球点からも攻撃することができ、
しかも「ボールを持つ」ということで、
安定性と防御性を加味し、
さらにその防御が
トップスピンやそれにカーブやシュートの回転や曲げることで、
攻撃的な打法にも転じることができるのです。
まさにドライブは万能打法です。

しかし、ここにきて、
この万能打法にも
「経年疲労」とでもいうような劣化が
露呈するようになってきたのです。(つづく)


その2

その1を提示してからすいぶんと時間が経過してしまいました。

この間、大震災があり、最悪の原発事故があり、いまだ終息していないなど、たいへんな出来事を経験しています。どうやら日本人というか、いや人類はこのかつて経験したことのない破局的な原発事故によって、人類史を画する新たな時代へ突入したようです。

卓球の世界では世界選手権ロッテルダム大会があり、中国の圧勝で終わりましたが、その中国卓球には顕著な変化がみられました。いや、中国卓球だけではなく、世界の卓球の趨勢は、これまでとは異なる新たなステージを求めているようです。

この変化は、卓球の技術史を画する「進化」とよんでも過言ではありません。そして、この「進化」と本論の「ハイブリッド・タクティックス」とは綿密にリンクしているのです。

それは卓球の近代史の終焉を、現代史の早暁を意味しています。

卓球の近代を切り開いたのはドライブを開発した日本です。その後、前陣速攻の中国が日本を破り、その中国をスウェーデンのパワー卓球が凌駕し、さらにそのスウェーデンを中国がパワーにスピンとスピードをプラスすることでリベンジし、その後、ほぼ一貫して中国は卓球王国の名をほしいままにしてきました。

おそらく、中国はもう二度と王国の座を他国に移譲したくはないのでしょう。みずからの力によって進化させることで、その地位を死守しようとしているようです。そしてその進化の痕跡が明確化したのが、今回の世界卓球でした。

筆者はロッテルダム大会の観戦総括リポートで、中国卓球の進化の具体的なポイントを挙げました。以下がそれです。

1.打球が強い。スピン、スピード、パワーすべてにおいて強力である。

2.恐ろしく速いスイング・スピード。

3.中陣、後陣はもちろん、前陣でも戦え、打球点が高く、ピッチが速い卓球に即応できる。

4.ドライブと強打の使い分けができる。

5.両サイドを鋭くえぐるコーナーワーク。

6.フットワークが抜群。

7.サービス、レシーブ、台上プレーが巧み。

この7つのポイントのなかの、3.4.5に注目していただきたい。この3つのポイントに「進化」の痕跡をはっきりと見つけることができます。そして、この“4”に、ひときわ象徴的にあらわれているのです。(つづく)


その3

「ドライブと強打の使い分けができる」
ごくわかりやすく述べれば、「ハイブリッド・タクティックス」は、ドライブだけではなく強打も混ぜるということになります。そう、トップスピンとノンスピンのスピードボールをハイブリッドする、ということです。

ほとんどのドライブ主戦型のプレーヤーは、エンドラインを越えるボールは、ほぼすべてドライブをかけようという気持ちがあります。

3球目や4球目でドライブ攻撃をねらい、ラリーになればドライブで応戦し、カット打ちももちろんドライブで対応します。ロビングのようなノンスピンのスマッシュが適しているような高い球でも、ドライブ(ドライブ・スマッシュとでもいいますか)するプレーヤーも多くいます。

ドライブしようという態勢でボールを待って、どんな球質のボールがきてもやはりドライブで対応する――。こういう指向性でプレーするプレーヤーが男子では80パーセント以上、女子でもトップクラスになるほどその比率は高くなります。

まさに「ドライブ主戦型」です。このプレースタイルをなぜかくも多くのプレーヤが選択するのかといえば、つぎのことが考えられます。

1.どんな球質のボールでも万能に対応できる
2.攻撃的にも、カウンター的にも対応できる
3.たとえ台より低いボールでも攻撃できる
4.ボールの待ち方が「ドライブ対応」だけでほぼ適応できる

ドライブ打法は攻撃的であるし、守備的能力も兼ね備えているし、そしてドライブするという気持ちだけで対応できるわけです。非常に有効かつ、便利というか、扱いやすい打法であるわけです。

ですから、全世界のプレースタイルはドライブ主戦型で席巻されたのです。もちろんこれからもドライブはすたれないでしょうし、有効な打法であることも変わりはないでしょう。

ドライブはすたれない。しかしドライブ主戦型は、これからいささか様相がかわってくるでしょう。なにがなんでもドライブという、トップスピン一本槍のこれまでの「ドライブ主戦型」は、しだいに歴史の藻屑となっていくでしょう。

そして、その兆しがはっきりと表出したのが、今回のロッテルダム大会だったのです。(つづく)

その4
タイミングを外せ!

ドライブ打法という技術はこれからも廃れずに進化していきますが、しかしドライブ一本だけで、ゲームを有利にたたかうことはできなくなります。いわゆる「ドライブ主戦型」という、これまでのプレースタイルは通用しなくなるということです。

なぜかといえば、ごく端的に述べれば「慣れちゃった」ということです。

人間たるもの、ある一定程度の時間、その状態、状況に置かれると順応するという能力をもっているのです。いや、人間だけではなく、動物だって、そうでしょう。

たとえば、自動車の運転免許をとって、はじめて高速を走ったとき、100キロを超えて、120キロ、130キロというスピードを出すのは怖いものです。ところが、何時間か走っていると、その怖さはうすれてきます。はい、慣れです。

飼い犬なんか、引っ越ししたらすぐにその住居の周囲をクンクン嗅ぎまわって、ものの5分もすれば、もう10年も住んでいるように振る舞います。(これはあくまで飼い主の想像ですが)。動物園の動物たちも、そこがふつうの世界であるように住んでいます。(ただし、彼らが納得しているかどうか……)

街中のバッティングセンターにいって、120キロのボールを打とうとすると、野球の経験があまりない者は、その速さに驚き、恐怖さえ覚えるものです。

ところが、プロ野球の世界では直球は140キロ台が当たり前です。こんなスピードボールをプロの選手たちは平気でヒットを打ち、ホームランさえかっとばします。

これも慣れというものです。プロはふだんから、140キロ台のスピードボールを打っていて、慣れているので打てるわけです。

ところが、ところが、これが150キロを超えると、いささか様相がかわってきます。あまり打たれなくなるのです。

なぜか。そう、150キロ台を投げる投手は少なくて、プロといえでもそんな球速に慣れていないので打てないわけです。

ドライブ一本ではなぜ通用しなくなる、というわけはもうおわかりですね。みんなドライブに慣れてきたのです。

いや、ドライブ打法はまだ有効な武器ですが、これまでどおりの使い方では効き目が弱くなってきた、というところです。

150キロ以上の球速をほこる投手でも、やはり最低でも1種類の変化球を持ち球にしています。これも、いくら豪速球といえども、直球ばかり投げ続けていてはタイミングを合わせられて打たれる確率が高くなるからです。

やはり、そこは変化球で、打者のタイミングを外す工夫が必要となるわけです。そして、変化球を混ぜることで、そのスピードボールがより生きてくるわけです。

はい「タイミング」というものに注目してください。

野球でも卓球でも、そのプレーヤーの力量レベルが上がるにつれ、タイミングさせ合えば、たとえ140や150キロのスピードボールだって、ヒットにしてしまうのです。

卓球でも同じです。タイミングさせ合えば、どんな強ドライブでも、ブロックし、カウンターできるようになります。

それは卓球キャリア1年以上の小学4年以上の年齢であれば、同じ球速、同じ回転、同じコースのドライブという条件で練習を繰り返せば、たとえ張継科、馬琳、王皓、馬龍、ボルのパワードライブだってリターンするようになるでしょう。

そう、これからの卓球はいかに「タイミングを外す」がテーマとなってくるのです。(つづく)


その5

G難度へのパラダイムシフト

これからの卓球のプレースタイルにも、主戦武器一本だけではなく、もう一つ攻撃的な打法が必要となってきます。とくにドライブ主戦型はトップスピンだけでのスタイルは通用しなくなります。

では、どうするのかといえば、ドライブにプラス、強打を混ぜるのです。なんだ、そんなことか、と思ったプレーヤーがいるはずです。しかし、これはドライブ一本でたたかってきたプレーヤーには、かなりの難題となります。

なぜなら、待ち方がこれまでと変わるからです。これまでなら、もうどんなボールがこようと、なにがなんでもドライブをかける、という態勢で待っていればよかったはずです。

これはとっても楽な態勢です。ひじょうにプレーしやすいのです。

ところがドライブ一本ではなく、そこに強打を混ぜるとなれば、待つ態勢を変えなくてはなりません。これはかなりやっかいなことです。

でも、そうしないことには勝てないとなれば、やらなくてはなりません。通常、自分がやりやすいプレーというのは、対戦相手にとってもやりやすいのです。

自分がイージーにできることは、相手もイージーにリターンしやすい。逆に、難度の高い技術は、相手もリターンする難度がたかくなる。このことをよく理解してください。

卓球にかぎらず、すべてのスポーツは上記の“法則”によって進化してきました。わかりやすい例ですが、体操競技のいまの最高難度はいくつかご存知でしょうか? そう、G難度です。

1964年の東京オリンピックでは“ウルトラC”と呼ばれ、最高はC難度だったことを思えば隔世の感があります。

体操競技から類推すれば、いま卓球界はF難度からG難度への移行期といったところでしょうか。

これは時代が大きく変わる“パラダイムシフト”です。いままでの既存の意識を脱して、新しい時代に目を向けた者が勝利を手にするのです。
つづく)


その6

ドライブでタイミングを外す

ドライブにプラス強打を混ぜる。これは難度が高い技術となります。でも、それをやらなくては、これからの新しい卓球の時代を勝ち抜いてゆくことはむずかしくなるので、やらざるをえません。

いや、わたしはこれまでどおり、自分のやりやすいドライブ一本でいくんだ。そういう人もおられるでしょう。そういう人は、それでいいのだと思います。

ドライブ技術をぐんと高めて、ドライブだけで相手のタイミングを外すことを指向すれば、まだまだ勝ち抜けるはずです。

ではドライブ一本でどうやってタイミングを外すのか?

1.逆モーションを使う。フォアサイドに打つと見せかけバックサイドへとか、またその逆のコースへ。

2.ドライブした打球を「沈ませる」「跳ねあがらせる」。ドライブが決定打になりにくくなったが、ドライブが沈むときや跳ね上がると決まることが多い。

3.ドライブ回転量に変化をつける。これは「タイミング」ではないが、タイミングを外すのと同様の効果が期待できる。典型的なのが、水谷が使うナックル・ドライブ。

以上のなかで、とくに2を自由に繰り出すことができれば、「ドライブ一本で天下を獲れる」可能性があります。

急角度で沈むドライブ、跳ね上がるドライブを意図的に打てるプレーヤーは存在するのでしょうか。もし、そういう人がいれば、ぜひ卓技研までお知らせください。

両ハンドを振るプレーヤーでも、この沈む、跳ね上がるドライブを研究・訓練を重ねることは有意義なことです。

ボールの待ち方

さて、バックハンドの必要性が不可欠となったいまでも、ほぼフォアハンド主戦でプレーしている柳承敏や吉田海偉ような選手がいます。彼らは相対的に不利なプレースタイルであるにもかかわらず、自分のスタイルを貫いて実績を残しています。

これを読んでいる方のなかには、柳も吉田も高いバックハンド技術をもっており、柳はバックハンド・ドライブやバックハンド強打、吉田も強力なプッシュがある、と言われるかもしれませんね。

でも、彼らは両ハンドをフルに使うプレーヤーと確実に違うポイントがあるのです。それは「待ち方」です。柳も吉田も、フォアハンドで待っていて、どうしてもフォアハンドで対応できないときにバックハンド系技術を使うのです。

ところが、たとえばペンで裏面を主に両ハンドを使う中国トップのプレーヤーは、両ハンドで待っています。もちろん、フォアハンドでまわれるケースであれば、攻撃力が高いフォアハンドを使いますが、ニュートラルな待ち方は両ハンドです。

この「待ち方」で、そのプレースタイルやタクティックスに大きな相違がうまれるのです。柳も吉田も頑張ってはいますが、どうひいきめにみても、やはり両ハンドで待ち、バックハンドからの高い攻撃力をもっているほうが有利なのはあきらかです。(つづく)

その7

ラケット位置は高く

具体的なドライブ&強打の「待ち方」について解説します。

まず、基本的な待ちの態勢は強打です。ここで述べる強打とは、そこは卓技研ですから、とうぜん「卓技研式水平打法」ということになります。

1.スタンスは台に対して右利きなら左足を少し前です。フォアハンド優位のスタンスですが、卓技研ではこのスタンスでバックハンドも兼用します。

2.バックハンドは高い位置でコンパクトにひきます。

3.このラケットの高さでそのまま強打(水平スイング)か強ドライブ(水平ドライブ)をねらいます。(強打もドライブも「水平スイング」ですが、スイングのベクトルは違います。念のため)

4.時間的、距離的に間に合わなければ打球点を落としてドライブします。

基本的に頂点か頂点前で打球できるときは「3」、そうできないときは「4」ということになります。

なぜ高いラケットの位置からバックスイングするのかというと、ラケットの高さ並びにバックスイングの位置は、高いほど有利なことがまずあげられます。それは……。

A.高い位置だとサイドを切る打球を打ちやすい。

B.テンポが速い。

C.ブロックやカウンターがしやすい。

D.相手の打球の威力に負けない。

E.強打もドライブも打てる。

高いラケットの位置は以上のように優れたメリットがあります。
デメリットはバックスイングを大きくとらないことでパワー不足があげられますが、これはフォロースルーをしっかりと振りきることで十分に補うことができます。

それに打球点が高く、それを高い位置からスイングすると強打にしろドライブにしろ、低い打球点とは比べものにならないくらい速くなります。

そして「3」で対応できないときは、打球点を落とすことで時間を稼いで、ドライブで対応すればいいのです。

卓技研としては「3」を主、「4」を従というスタイルを推薦しますが、プレースタイルや好みによって逆でもかまいません。とにかく、ドライブだけではなく、強打を混ぜるのです。

この強打の配合によって、ドライブ+強打の効果は飛躍的にアップします。ぜひ、お試しあれ。(つづく)

その8

平野早矢香のチェンジアタック

卓技研が、そのドライブ+強打を織り交ぜる格好のターゲットとみていたのが平野早矢香でした。

彼女はほぼすべての前中陣ラリーをフォアハンドもバックハンドもトップスピンで対応していました。まさに日本版・張怡寧というプレースタイルで全日本を5度制覇し、世界選手権やオリンピックでは日本女子の大黒柱として安定した戦績をのこしています。

ところがここ2年ほど前から、全日本で勝てなくなり、また海外オープンでもランク下の選手に負けるなど、あきらかに精彩を欠くようになってきました。

そのもっとも象徴的なのが、2年前の世界選手権横浜大会でたしか2回戦だったと記憶しているのですが、ランク下のヨーロッパ選手に負けた試合です。

この試合は、平野の卓球が壁にぶちあたったと、明確に示したものでした。それは平野のトップスピンがまったく通用しなかったことです。

平野のトップスピンは相手にとっては決定打とはいかないまでも、押し込む威力はある主戦武器だったのが、対戦したヨーロッパ選手にライジングや頂点で打ち込まれてしまったのです。

1ゲーム(セット)を落とし、ベンチでアドバイザーに自分の打球がぜんぜん通用しないことを泣き顔で訴えている平野の表情と、その音声をひろったテレビのマイクを通した彼女の悲痛な声を忘れることはできません。

かなりのショックだったはずです。自分が拠って立つ武器が、いとも簡単に打ち砕かれたのですから。

その試合はあきらかに平野のプレースタイルというか、「平野卓球」の変革を要求していました。しかし、その後、平野の卓球は基本的な変化は見受けられず、前記のように全日本で2度優勝を逃し、またこれまで優勢だった対戦者にも負け越すようになったのです。

なぜか? ひとつは「平野卓球」が慣れられたということ、もうひとつはドライブというかトップスピンそのものに、日本にかぎらず全世界のプレーヤーが慣れてしまったということです。ちょうど、このふたつのポイントが重なったことが戦績の低下をまねいたとみていいでしょう。

まあ、平野にたいする以上のことは、折に触れてこの卓技研ウェブで書いてきました。そして、この「技術論」の今回のテーマの格好のモデルとして平野を俎上にしようとしていたのです。

そんなとき、今回の世界選手権ロッテルダム大会のテレビの番宣番組で平野が取り上げられ、そのなかで「チェンジアタック」という、トップスピンに強打をまぜるという練習をしているということを知ったのです。

そう、平野のコーチや平野自身も、いままでのトップスピン一本槍のスタイルでは通用しないことはわかっていて、そこに強打を混ぜることの必要性は感じていたのです。

ところが、わかっているものの、平野はなかなか旧来のスタイルから抜け出せなかった旨のことを、たしか大嶋監督が番組のなかで述べています。

今回の世界選手権で、その変貌の一端は見せてくれたように思います。ロンドンオリンピックのシングルスの出場資格は獲れなかったものの、「チェンジアタック」を平野が自分のものにしたら、かならず平野の巻き返し、復活はあると断言します。

できれば、その「チェンジアタック」に卓技研式水平打法を取り入れてもらいたいものです。これをマスターして、ドライブとハイブリッドすると、平野の全日本6度目の優勝はもちろん、「世界」も視野に入るとことはまちがいありません。

卓技研ウェブの読者のみなさんは、ぜひ今後の平野のプレースタイルの変化に注目してもらいたいものです。それは日本卓球の未来もうらなうことになるのですから。

平野なら、かならずハイブリッド・タクティックスをマスターして、新しいステージに立つことができるでしょう。(つづく)

その9

表ソフトのハイブリッド・タクティックス

いままでハイブリッド・タクティックスについて、ほとんどドライブ主戦型に向けて解説してきました。その理由は、このスタイルが断然多いこと、それにすでに述べていますように、ドライブだけでプレーすることに限界がみえてきたからです。このハイブリッド・タクティックスのスタイルはドライブ主戦型のために開発したといってもいいでしょう。

しかし、だからといって、このハイブリッド・タクティックスが、その他のプレースタイルにとって必要ないというわけではなく、もちろんこれからの新しい卓球にとって不可欠です。

では、表ソフトを使っているプレーヤーのハイブリッド・タクティックスはどうすればいいのでしょうか。

1.まず、得意とする強打を卓技研式水平打法を採用することで、スピードを増強することと、ブロックとカウンターを鉄壁にすること。

2.そしてナックル強打をマスターし、水平打法とのハイブリッド化をはかる。水平打法をマスターすると、その技術の延長線にナックル強打があるので、ナックル強打は容易に獲得できる。

3.シェークハンドでフォア面かバック面に表を貼り、片側の面に裏を貼っている異質ラバー型の場合、ラケットを回転させるリバーシブル打法をマスターする。

以上を解説します。

まず「1」ですが、表を使う第一のメリットは球離れの速さと打球スピードにあります。ところが、この表最大の特徴を活かしきっていないプレーヤーが多いように見受けられます。

まず、打球に徹底的にスピードをつけるのです。それには、可能なかぎり水平にスイングすること、ボールにスピンをかけないことです。

以上の「1」の強化をはかったうえで、「2」のナックル強打をマスターします。

ナックル強打といっても水平打法の発展形態で、ふつうに水平打法で打ってもナックルになることがあります。まあ、表はふつうに打っていても、ナチュラル・ナックルというか、ナックルボールが出やすいラバーですが。

ここでいうナックルとは、ゆるい下回転が入った強打で、水平打法はノンスピン打法とは呼んでますが、通常はごく若干の上回転が入ります。

このナックル強打のボールを打つと落ちます。通常の水平打法の強打(ときにはナチュラル・ナックルが入って落ちることもある)を打っても落ちません。

そして、このナチュラル強打のメリットは、水平打法と見分けがつきにくいことです。まあ、最低でも最初のナチュラル強打は、ほとんどのプレーヤーが強打と見分けがつかずネットにかけるものです。日本では野平直孝選手(引退)が、このナックル強打の使い手でした。

それに見分けがついたとしても、このナックル強打もスピードがあるので、非常に対応がむずかしいのです。ナックルを主戦武器にしている表、それに粒高のプレーヤーは、ナックルにスピードをつけることをマスターすべきです。

レベルが上がるにつれ、ボールの回転への対応は巧みになります。いくらボールに回転の変化をつけても、レベルの高いプレーヤーには通用しづらいのです。それはトッププレーヤーに粒高が圧倒的に少数ということをみてもあきらかでしょう。

ところが、ナックルにスピードがあると、これはレベルが上がっても対応がひじょうにむずかしくなります。

スピードというのは時間との関連で普遍性があるのです。普遍性があるということは、たとえ対戦相手のレベルが上がったとしても有効だということです。

そして、そこにナックルという回転性のボールが加味させると、たとえレベルが高いプレーヤーであっても対応に苦慮するのです。

ですから、たとえば福原愛はバック面に表を貼っていますが、バックハンドのハーフボレーの強打をスピードアップするとともに、そこにハーフボレーのナックル強打をマスターすれば、女子に多いバック対バックのラリー戦では、相手が裏のプレーヤーなら、ほぼ絶対的に優位にたてます。

通常、バック対バックのハーフボレーのラリー戦の場合、バックハンドの水平強打+ナックル強打というハイブリッド・タクティックスをマスターしていれば、もう裏の少々強力なトップスピンに負けることはありません。

これは絶対といっていいほどです。断言します。技術的というか、物理的というか、負けるわけはないのです。

また福岡春菜のような粒高のプレーヤーもこれからは総体的に打球にスピードをつけることと、ナックル強打を覚えることです。おそらく、そこにしか粒高プレーヤーの活路は見いだせないでしょう。

「3」は究極のハイブリッド・タクティックスです。サービスとレシーブで、裏か表か異なる面を使ったり、またラリー中にくるっとラケットを回戦させて対応するのです。

これはシェークハンドだけではなく、ペンで裏面打法を使うプレーヤーも、反転させることでハイブリッド・タクティックスのメリットを追求することができます。

もしかしたら、これからは時代の要請に従って、いわゆる「異質ラバー型」にすることでハイブリッド・タクティックスを指向するプレーヤーが増えるかもしれません。

卓技研・秋場龍一

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