技術論 飛躍の連打(2) of 卓球技術研究所t3i

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技術論 飛躍の連打(2)

岸川流フォアとバック五分五分待ちの
「リバーシブル態勢」スタイルは
卓球の進化である


前回述べたように岸川の特徴は

1. フォアハンドとバックハンドをほぼ五分五分で待つ
2. バックハンド系、とくにトップスピンのロング打法は
世界ナンバーワン

こう書くとそれほど特異なものには映らないかもしれないが、
(1)を徹底させるとなると、そう簡単にはいかない。

おそらく、五分五分で待つスタイルは
世界のトップでは岸川だけではないだろうか? 
中国やヨーロッパのプレーヤーも
バックハンド系は多用する。
しかし、「待ちの意識」は五分五分ではない。
それは七分三分から八分二分程度ではないだろうか。
その理由はなぜか。

1. フォアハンドのほうが強力だから。
2. ヒトの神経回路として、フォアハンドかバックハンドか、
どちらかに偏って決めておいたほうがスムーズにはたらくから。

その(2)を徹底しているのが、
韓国のユ・スンミン(柳承敏)であり、日本の吉田海偉である。
ただし、彼らのようにフォアハンドを徹底させると、
マイナス面も大きくクローズアップさせることになる。

それは読者もよくご存知の通り、
フォアハンドだけではオールコートカバーしづらく、
中陣から後陣に下がって
広いスペースをフットワークしまくることになる。

フォアハンドで待ちつつ、
柳や吉田のようなプレースタイルをとりたくないのが、
トッププレーヤーならずも、
いまほとんどの若年・壮年プレーヤーが採用する、
バックサイドにきたボールには、
フォアハンドの意識から
バックハンドの意識へ切り替えての対応である。

ところが、岸川は最初から五分五分の
「純リバーシブル態勢」の待ちなのだ。
このプレースタイルを貫徹させるには,
もちろんバックハンド系が強い
ということに裏打ちされてのことだが、
しかしヒトの神経回路の特徴からいって、
これはなかなかの至難のことである。

おそらく、右利きとか左利きとかがあり、
両利きが極端にすくないというのは
以上の神経回路の特徴によるものだろう。

野球にスイッチヒッターが優位なことは明らかなのに、
このプレースタイルのバッターが極端にすくないのは
以上の理由からだろうし、
そのスイッチヒッターでも
「あとからマスターした」ほうは弱いという選手が多いものだ。

岸川のスタイルは、
いわばこのスイッチヒッターのようなもので
――いや、毎回どこに返球されてくるかわからない
卓球のほうが難しいだろう――
毎球、スイッチヒッターをやっているようなものだ。

以上のことは、まあごく常識のことだが、
なぜこんなことをくどくど述べるのかといえば、
岸川の五分五分のスタイルは
「卓球の進化」としてとらえており、
単なるプレースタイルの一つとは
区別して考えているからなのだ。

こういう技術ができれば優位なのは明らかなのだが、
それはかなりの困難をともなうもので、
そんなことに時間をかけて訓練するより、
従来の自分がやりやすい技術を磨いたほうがよい、
と多くの選手やコーチ、監督は志向し、
こっちのほうを選択するものである。

しかし、人間の進化というか、
卓球の技術発展の歴史をちょっと振り返れば、
困難なことを克服して「自分の技術」として
身につけてきたのである。
そして、それを可能としたものが頂点を極めたのだ。

そのもっともよくわかる例が、
ペンホルダーの裏面打法である。
ペンのバックハンドが弱いというのは
周知の事実である。

シェークのバックハンドのハーフボレーのように、
前陣や前中陣で攻撃的なロングやドライブ打法が
ペンの表面ではなかなか難しく、
プッシュやパワースイング系のバックハンドでの対応は
やはりシェークにくらべて弱いことは否めなかった。

このペンのバックハンドの弱点を表面を使って
克服したのが河野満だった。
確かに、河野の前陣から前中陣でのバックハンドは
素晴らしかった。
しかし、河野以降、
彼のような鋭いペンのバックハンドを駆使するプレーヤーは
現在にいたるもお目に掛かったことはない。

河野タイプの表ペン攻撃型といえば、
1987年全日本優勝の糠塚重造、それに田崎俊雄だが、
彼らに河野のような鋭いバックハンドを見たことがない。

通常、技術というものは、
あとからきたものが先人を追い抜いてゆくものだが、
この河野のペン表面バックハンドを超えた者は、
日本にかぎらずどの国のプレーヤーにも出現していない。

なぜか? 
これはもう、河野の超人的な得意技であり、
他者は超えるどころか
真似すらできない特殊ケースとするしかないのだろう。

それだけ、ペンの表面のバックハンドは
難しいということと結論づけるしかないのでは……。

そして、そういうペンの特徴に踏まえて登場したのが、
裏面打法である。
この技術は中国のペンのトップ選手は
完全にマスターしているのだから、
河野のような特殊ケースではなく、
普遍性をもった、それなりの訓練を積めばなんとかなります
という技術打法なのである。

しかし、いくら普遍性がある技術であっても、
裏面打法を試したことがある人なら分かると思うが、
これがなかなか難しい。
難しいというより先に、
やってみると、なんともいえない違和感を覚えるものだ。
使う筋肉も違うし、シェークのバックハンドよりも腕を後ろに捻るので、
肘が壊れるような感覚も覚える人も多い。

でも、中国選手はペンでトップに立とうとすれば、
もう絶対に裏面打法が不可欠だと、
これをほぼ完全に自分の武器、技術として
マスターしてしまったのである。
だからこそ、王皓や馬琳は世界のトップに立てたのである。

この裏面打法はもう明確に「技術の進化」そのものである。
そして、このような「技術の進化」を張怡寧に、
そして岸川聖也のプレースタイルにみるのである。

このようなことを述べているからといって、
他のプレースタイルを否定しているわけでは、まったくない。
卓技研の原則的な見解は、
自分が好むプレースタイルを磨けばいいということであって、
オールフォアで回りたければ回ればいいし、
なんだったらオールバックでもいいだろう(これはちょっと無理か)。

ただ、あたらしく開発された技術を使いこなしたほうが、
今後は優位になるということは明らかだろう。
(剣と銃では、どちらが戦いに優位なのか、明白だろう)
本稿はそのことをくどくど展開したわけである。

さて、次回は「飛躍の連打」完結編である。
岸川の五分五分の待ちスタイルはどうすればマスターできるのか。
そして、さらに飛躍の連打となる技術を獲得するには
どう考え、どう訓練すればいいのかを述べることになる。
卓技研・秋場


技術論 飛躍の連打(1)
技術論 飛躍の連打(3)



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