音で聞き分けるスイートスポット打法の確認

 いかがだったでしょうか? スイートスポット打法を試し打ちされた感想のほどは……。ボールがラケットフェイスに当たったときの球離れのよさ、柔らかくてあまーい感触、しかもボールがぐんと伸びる打球となる快感を味わえたでしょうか。
 もし、すこしでも実感したのであれば、その打球音がそれまでとは違ったことに気がついたでしょうか? スイートスポット打法が完璧にできたときは、ラケットのブレードにボールが直接当たったような、「カンッ」という高い音が出る。スピードグルーを多量に塗ったときに似た音だ。スイートスポット打法では、スピードグルーを使用しなくても、使用したような音とスピードが出るのである。
 このカンッという音が出るということは、インパクト時にボールをラバーでこすらないというか、ひっかけないということである。ほとんどのロングラリーにおいてスイートスポット打法を使わないとき、トップスピンがかかってリターンしている。あるいは、初級者や中級者は、ナックルや横回転が入ることも多い。これは、ボールをラバーでこすり、ひっかけているのである。このボールとラバーのひっかかりが、打球の伸びを消失させ、ボールの威力を減少させる最大の原因である。そして、打球音はにぶくなる。
 スイートスポット打法はボールがラバーにひっかからない打ち方なので、ボールとラバーに当たるときの摩擦がほとんど起こらない。言葉をかえれば、この摩擦が起きないとき、カンッといういい音が出て、摩擦が起きたときはにぶい音が出る。また、摩擦が起こらないということは、ボールがラケットに当たるとき、スピード・エネルギーにおいて、もっとも合理的にミートしていることになる。ボールがひっかかって摩擦が起きるとき、打球スピードがその摩擦によって相殺して減少すると言ってもいいだろう。
 よほどの高いボールでないかぎり、ほとんどのボールをトップスピンをかけてリターンするタイプのプレーヤーなど、スイートスポット打法を必要としないプレースタイルなら別だが、ドライブと強打を使い分けたいのであれば、強打はスイートスポット打法にすることをぜひ薦めたい。
 強打のときスイートスポット打法を使いたいのであれば、打球するたびに、その打球音を意識して聴いてもらいたい。スイートスポット打法を試して、そのカンッという音を一回でも認識できたら、初級者であっても、すぐにひっかかったときの打球音とスイートスポット打法の打球音とのちがいを聞き分けられるようになる。
 そして、この打球音を意識することで、自分が打球した一打一打のスイング・フォームが瞬時にチェックできるようになるのである。音でいいスイングかどうかわかるのだ。ある程度上達すると、日によってスイングに微妙なずれのあることが認識できるようになる。それが好不調の原因でもあるのだが、この音を聴くことで、スイング・フォームの修正がすぐにできるのだ。
 たとえば、フォアロングのラリー練習で、どうもにぶい音ばかりするなら、バックスイングの高さを飛んでくるボールに意識して合わせるとか、スイングの軌道が下から上になりすぎていないかとか、あるいはラケット角度が下を向きすぎていないかなど、フォームのチェックポイントを点検して、スイング・フォームをすぐに修正できるのである。

スイートスポットとスイング・バランス

 スイートスポット打法は、ごくふつうのスピードで打ったつもりでも、かなり速い打球になる。しかも、相手コートのサイドをいとも簡単に打ち抜くことができる。つまり、かなり攻撃的な強打法なのである。こんな打法をどんなボールでも打つことが出きればいうことがないのだが、実戦ではどんなコースにボールが来るかわかないし、しっかりとしたスイングができないことが多いものだ。
 フォア対フォアのラリー練習のような、きまったコースでの練習であれば、比較的簡単にスイートスポット打法を打つことが可能である。ところが、実戦になれば、たえず動いて打つことが多くなり、スイートスポット打法を使用するときに要求されるスイング・フォームがつくれないケースも多くなる。つまり、スイング・フォームのバランスがくずれるのである。
 ある程度、上達すれば、バランスさえくずれなけば、打ちミスはほとんど出なくなる。
バランスがくずれるということは、ラケット面が正確に出にくくなることである。逆に言えば、どんなにバランスをくずされようと、ラケット面さえ正確に出ればミスはでないのだ。
 このバランスの問題では二つの対処法がある。一つは、どんなボールが来てもバランスをくずされないフォームで打つ方法と、バランスをくずされても正確なラケット面をつくる方法である。
 野球では、バッティングはスイング・バランスが決定的な問題である。ピッチングはいかに相手打者のタイミングをはずすか、つまり打撃スイングのバランスをくずすかである。つぎに紹介するのは、かつて「赤バットの川上、青バットの青田」と打撃の神様といわれた川上哲治と並び称され、2冠王を2度獲得した球史に残る強打者である青田登氏から直接お聴きした言葉である。
 「王はどんなボールがきても絶対にフォームをくずされなかった。長嶋はフォームをくずしてもバットの芯にボールを当てた」
 これは天才打者・長嶋茂雄を評したときの言葉なのだが、通常、打撃練習においては、やはり王貞治をめざすだろう。つまり、どんなボールがきてもフォームをくずさない打撃フォームを訓練するのである。
 これは、卓球にも通じる。バットの芯にボールを当てるということ、卓球ではラケットの芯にボールを当てること、つまりスイートスポット打法を打つためには、どんなボールが来ても、できるだけスイング・フォームをくずさないことである。
 では、どうすれば、スイング・フォームがくずれないのか。まずは、飛んできたボールにはやく動くことである。このとき、手からではなく、足から、フットワークを使って素早く動けば動くほど、正しいスイングができる時間と空間が得られることになる。
 もう一点、スイングするとき、いつも自分の身体にセンターを意識するのである。頭の中心から身体に、縦に一本の線を通し、さらに臍下丹田(へその下五センチの点)から横にも線を一本通すことをイメージしてみる。そして、スイングするたびに、この縦の線は真直ぐ、横の線は真横になることを意識して打ってみるのだ。あるいは、もうすこし単純に、スイングのときに、身体の重心がいつも臍下丹田にあるように意識してもいいだろう。
 この身体のセンターを意識することで、スイング・フォームのくずれをふせぎ、スイートスポット打法がいつでも繰り出せるようになるのだ。

                    (秋場龍一)