インパクトの瞬間、相手ラケットに目線を向けよ

 結論から述べよう。

 サービスのとき、ラケットにボールがあたるインパクトの一瞬前に、レシーブする相手のラケットを見る。

 ボールをインパクトまで見て、それからボールを追いかけるよりも、ボールをインパクトまで見ないで、それより前に相手コートに目線を向ける。たったこれだけのことで、「一瞬」のプレー時間が確保できて、サービスから3球目への始動が早くなり、3球目攻撃や相手のレシーブ攻撃にも、いち早く対応することができるのである。
 スポーツを競技の面から集約すると、「時間・空間・速度・力」という要素に絞られる。このなかで、卓球は「時間」の要素がきわめて大きいスポーツだ。卓球では、まさに「一瞬」という、まばたきする1秒にも満たない時間が勝負を分ける。この「一瞬」の時間をサービス時に確保するのが、この冒頭にあげた「ラケットにボールがあたるインパクトの一瞬前に、レシーブする相手のラケットを見る」ことである。
 通常、サービスのとき、ラケットにボールがあたって、その自分が出したサービスのボールを追うように目線が動く。この、ボールを目が追うことで、3球目への対応が一瞬遅れるのだ。
 サービスでは、ほとんどのプレーヤーがラケットのボールをあてようとして顔を下に向ける。そして、ボールがあたると、そのボールを追いかけるように、顔が相手コートの方に向く。この顔を下に向け、ボールがあたってから顔が相手コートの方に向くまでの動作によって、一瞬という貴重な時間をロスする。この顔の動きは、目がボールを追いかけることによって起こるものである。
 ところが、サービスのとき、ボールがあたるまで見ないで、インパクトの瞬間には、相手のコートに顔が向いていることで、サービスを出す一瞬前から、レシーブする相手より先に、3球目への対応や始動できるのだ。

サービスとラリーのボールを見ることのちがい

 だが、このサービス法に異議をとなえる人もいるだろう。なぜなら、ボールはインパクトの瞬間までよく見ろ、といわれているからだ。もちろん、私もボールをよく見るということに異論はない。しかし、サービスにかぎっては、インパクトの瞬間に、ボールを見ないで、相手を見たほうが絶対に正しいことだと断言する。
 サービスとラリーでは、目線の角度がちがう。サービスはボールを投げあげるときから、ボールを打つインパクトの瞬間まで、ボールに目線を送って、相手の動きは視野のわずかな片隅にしか入らない。一方、ほとんどのラリーでは、目線はボールにあるものの、相手の動きはほぼすべて視野に入っているものだ。
 つまり、サービス時にボールを見ることで、相手の動きを視野からいったんうしなってしまうのだが、ラリーではそうはならない。ラリー中には、サービス時のように、顔が下に向き、相手の動きを視野からうしなうことはほとんどない。もちろん、ドライブボールをカットするときなどは、顔が下に向いて、相手の動きを視野からうしなうことになるが、これはサービスとちがって、台から離れているので「一瞬のロス」など問題にならない。
 また、サービス時、インパクトの瞬間に目を離して相手のラケットを見ても、ラリー中のようなミスは出にくい。なぜなら、サービスを投げあげるボールは自分がコントロールしたボールであり、ラリー中の相手が打ったボールのような変化や回転があるボールとはまったく性質がちがうからだ。だから、サービスでは、ボールをインパクトまで見なくても、思うようにサービスが出せるのだ。
 そうはいっても、すぐにサービスでインパクトの瞬間に、目線を離すことはむずかしいだろう。とくに高い投げあげサービスはむずかしい。最初はミスが多くでるかもしれない。そこは、訓練である。インパクトの瞬間に相手のラケットを見ることを意識して、サービス練習を繰り返せば、思いのほか短期間に、この技術をマスターすることができるだろう。
 このサービス時の目線については、もう数年前から中学生には指導してきたが、ことし、卓球レポート誌上で、張恰寧がこのサービス時の目線法とまったく同じことを述べていたのを見つけた。それまで、一度もこの技術について言及したものを見たことも聞いたこともなかった。(あるいはたんに、私が知らなかっただけかもしらないが……)実は、この技術を採用しているのは、トッププレーヤーでも少ないのだ。サービスのスローモーションを見ると、そのことがよくわかる。
 現代卓球にとって、サービス→3球目はきわめて重要なポイントである。この技術をマスターすることで、これまでより3球目の対応、始動が一瞬早くなり、強打できないボールを強打に、ノータッチで抜ける相手の強フリックをカウンターブロックにでき、あるいはより俊敏なフットワークを身につけたことになるだろう。「一瞬」という時間の確保は、より速いスピードと、より広い空間と、より強い力を得たことに匹敵する。サービスのインパクトは見ないで、一瞬早く相手ラケットに目線を移せ!
                                 

秋場龍一