[卓球パーフェクトマスター]
選手、ビギナーから指導者まで、
評判が評判を呼んで、
ついに4万部を突破しました!
卓球技術解説書としては、
空前のベストセラーです。
みなさん、ありがとうございます。

購入はこちらから

前回「技術論」で台上ドライブの新打法として、「RHドライブ」「逆スイングチキータ」「フォアハンドチキータ」をマスターせよと檄を飛ばしました。この新打法についての具体的な打法は次回に解説いたしますが、勘のいい人はこの名称だけで、この打法がどういうものかピンときたはずです。わからない人は、もう一度、ようくこの名称を読んでください。まさに、そのまんまの打法ですから……。
 さて、今回は、RHドライブに欠かすことのできない粘着ラバーやこのラバーを使ったプレーヤーの特性を高弾性ラバーと比較しながら解説しました。ちょうどタイミングよく、読者からこの点に関する質問メールが寄せられましたので、それにお答えするかたちで展開します。


Q 強粘着性のラバーではその特性を生かすため、ボールとの接球時間を長く取れるようなスイングをしたいのですが、高弾性ラバーでのこすり方(薄く捕らえた後ボールを包むようにスイング)と同じでよいのでしょうか? 強粘着ではラケットのヘッドを上に向けるような(高弾性は下げる)スイングをするという説明を見たことが ありますがほんとでしょうか?

A 粘着性と高弾性ラバーとの相違ですが、それは卓球王国9月号に図解入りで詳しく掲載されていますので、参照されるといいと思います。
 また、粘着性と高弾性ラバーとのスイングの相違ですが、これはとっても重要な問題を含んでいます。ご存じのように強粘着性ラバーは中国で開発されました。このラバーの誕生は、単に新しいラバーの開発というものではなく、中国卓球界が一丸となって、これまでにない新たな卓球のプレースタイルを開発させるという一大戦略の基で誕生したものと考えられるからです。おそらく中国は、世界選手権で敗れた、ワルドナーを筆頭とするスウェーデンのパワー卓球に対抗するプレースタイルを開発すべく、その過程で強粘着性ラバーが誕生したと推測されます。それ以前まで、中国はスピード卓球を第一に指向していました。
 粘着性ラバー最大の特徴はボールを「持てる」ということです。ボールを持つことで、攻撃だけではなく、守備的な余裕を得られるということです。ただし、守備的な部分が増えるということは、攻撃性がその分減少することになります。この相関関係は常に卓球のプレーには付いて回るはずです。
 では、攻撃性のなにが減少したのか、それはスピードです。厳密にいえば、ミート的なスピードです。ラバーに接触する時間が長い分だけ、相手に与える時間が増えるということになります。
 その攻撃性をうしなった分、中国は粘着ラバーでなにを得たのでしょう。それは、すでに述べた守備的な「時間」と「スピン」です。少々、相手に時間的余裕を与えても、その分、強力なスピンで相手を圧倒するというものです。現在の中国のトッププレーヤーは、ほとんどトップスピンをかけてリターンします。フォアハンドはもちろんバックハンド・ハーフボレーでもトップスピンをかけます。トップスピンをかけることで、強打ではなく、通常のリターンにおいても攻撃性を増量させたのです。
 そして、ボールを「持つ」ということは、必然的にラケット角度が前方へかぶせることになります。このかぶせる角度が大きいほどボールを持てるわけです。ちなみに、カットマンはこれとは反対の角度にラケットを開くことでボールを持つことができ、守備的な余裕を得るのです。また、水平打法はラケットを台にたいして直角にするのですが、これはボールを「持つ」ことをできるだけ排することで、スピードを相手に与える時間を減らす対極的な打法です。
 さて、ラケットをかぶせれば、とうぜんボールをリターンしたとき、下の方向へ飛びます。これを強粘着性によってふせぐことができるのです。強粘着ラバーはラバーに接着剤がついているようなものです。ですから、「強粘着ではラケットのヘッドを上に向けるような(高弾性は下げる)スイングをする」という説明になるのでしょう。ラケットヘッドを上に向けるということは、前方にかぶせるということと同じです。逆にいうと、それだけラケット角度をかぶせてもボールが落ちにくいということになります。
 ただし、いくら強粘着性といっても、かぶせれば下に落ちます。それを防いでいるの
が、スイング・スピードなのです。このスイング・スピードが重要なポイントです。たとえ、高弾性ラバーであっても、スイング・スピードが速ければ、ラケット角度をかぶせていても、またスイング方向が水平でも、ボールは「持てる」のです。もちろん、粘着性になるほど、ボールを持つことができますが、高弾性であってもスイング・スピードさえあれば十分に補うことができます。
 ちょっと、表現が複雑になったようですが、問題は非常に単純なことはおわかりいただけると思います。そして、ここで最大のテーマとなるのが、スイング・スピードを生むためにはどうすればいいのかということに帰結します。そう、それはフィジカルの強さにつながります。おそらく、中国では、この強粘着性ラバーを使いこなすために、相当なフィジカル・トレーニングを積んでいると思われます。中国のワン・リチン(※)のプレーを目の前で観たことがありますが、そのパワー(スピード×スピン)の強力さには度肝を抜かれました。


Q ご丁寧な解説ありがとうございます。「球持ち」=「こする」、そしてスイング・スピードが必要ということは理解できました。イメージとしては、ミートするのではなく、ラケットでボールをこすった後にボールが飛び出していく感じでしょうか?
 また質問しても良いでしょうか?
 (1)球のヒットポイントは高弾性ラバーで打つときと違ってきますか?
 (2)スイングの軌道もいわゆる楕円型にしないと上手く打てないのでしょうか?高弾性ラバーでのこすり方(水平軌道)でもスイングスピードが満たされていれば問題ないのでしょうか?

A まず、「ラケットでボールをこすった後にボールが飛び出していく感じでしょうか?」
とありますが、まったくそのとおりです。それだけ、ボールを「持つ」ということです。
ボールを持てることに、粘着性ラバーをつかったプレーの特長がでるわけです。
 「(1)球のヒットポイントは高弾性ラバーで打つときと違ってきますか?」
 ヒットポイント(打球ポイント)は、高弾性ラバーと基本的には同じですが、台上の短くて低いボールは粘着ラバーの得意とするところですから、粘着ラバーよりもひろがります。
 「(2)スイングの軌道もいわゆる楕円型にしないと上手く打てないのでしょうか? 高弾性ラバーでのこすり方(水平軌道)でもスイングスピードが満たされていれば問題ないのでしょうか?」
 楕円スイングでなくても上手く打てるはずです。というか、楕円スイングのようなバックスイングの軌道よりも、飛んできたボールの高さに応じた(「自在バックスイング」とでもいいますか)ものを当方では推薦しています。くわしくは、当サイト「技術論」のNo.1.2をごらんください。
 また、高弾性ラバーでも、水平軌道のドライブは可能です。ただし、粘着ラバーのほうが、水平軌道のドライブをやりやすいでしょう。

 強粘着性ラバーを使いこなし、すべてのロングボールにトップスピンをかける打法が得意な日本のトッププレーヤーはかなりすくないはずです。女子の平野と藤井くらいでしょうか。日本にいる中国人のコーチはトップスピンをかけるように指導している人が多いようです。どのプレースタイルにするかは、本人が決めるべきだと思いますが、これからの世界の傾向は、ドライブと強打(スマッシュ)両方こなせるタイプが有利になるのではと考えています。まあ、とはいっても、自分がこれだと思うスタイルを頑固に貫くこともけっしてわるいわけではありません。

※「ワン・リチン」(王励勤・中国)と表記しましたが、今後当サイトでは原則的に、どの国の外国人選手であっても原国発音をカタカナで表記します。ただし、「毛沢東」とか「周恩来」というような場合はそのままこのように従来の表記で通します。
 ところで、なぜ北朝鮮人はカタカナ表記で、韓国人は漢字表記なのでしょうか? この点に関する合理的な答えをご存じの方はお教えください。


        
 台上ドライブその1


秋場龍一