野性味たっぷりのヨーロッパ卓球

 今年3月に開催されたドイツ選手権の模様が、スカパーの卓球チャンネルで放送された。男子シングルス準々決勝あたりから観ていたが、どのプレーヤーもスピードとパワーがあり、そしてなにより個性的で思いっきりがいい。ドイツはもちろんだが、ヨーロッパは総じて卓球がダイナミックで野性味が感じられて、観ていておもしろい。
 ロングラリーでの「つなぎ」が、ロビング以外ほとんどない。つないで、次のボールを待ったり、あるいは相手のミスを期待しない。ドライブで攻め、ロング戦になると、前陣と中陣のあいだあたりで、頂点をねらったドライブあり、強打あり、カウンターブロックありの、パワフルでスピーディなラリーになる。ロング戦というと、中陣にさがって、打球点を落としたドライブの引きあいというイメージがあるが、このドイツ選手権では、そんなラリーはまったくといっていいほどなかった。


ボル・ドライブに注目を

 さて、やはりドイツといえば、どうしても観たいのはボルのたたかいぶりである。案の定、世界ランク2位の実力を発揮して決勝まで進出し、決勝でも4−0の圧勝だった。ボルの最大の武器は「ループドライブ」といわれている。いまどき、ループを主戦にして世界ランク2位とは、どういうことだと思われるかもしれない。ボルのあのドライブをカテゴライズすると、しかたなく「ループ」としなければならない。なぜなら、スピードドライブとも、パワードライブとも異なるからだ。でも、あのドライブは厳密にいうとループドライブではないだろう。もう、「ボル・ドライブ」とでも呼んだほうがいいのかもしれない。確かにループドライブのように回転量は大きいのだが、スピードというか、ぐんと伸びるように、ボールそのものの飛び方に威力があるのだ。
 通常、ループドライブはバックスイングを大きくとって、ひじを軸にして、真上に振り上げて回転量を求める。だが、ボルはドライブをかけるとき、バックスイングはほとんどとらない。からだの真横にバックスイングのトップをとって、そこからインパクト→フォロースルーを鋭く振り抜くことで、あのスピンとパワーを生んでいるのだ。

バックスイングを小さく、
インパクト→フォロースルーを速く

 このボル・ドライブに卓球の進化を見ることができる。今後、世界の卓球界は絶対まちがいなく、ドライブにかぎらず、どんなスイング・フォームであっても、バックスイングを小さくして、インパクト→フォロースルーを速く、力強くなることを指向するだろう。なぜか? 
 現代のトップレベルでは、バックスイングを悠長にとっているヒマなどないからだ。ボクシングを例にとろう。パンチを繰り出すとき、いちいち拳を引いて打たない。拳を構えた位置から、そのままパンチを繰り出す。一瞬でも拳を引いては、相手に打つことがさとられてしまう。ジャブが俊敏で強力であればあるだけ有利であることはまちがいない。ボクシングの理想的なパンチは、ジャブ1発でダウンさせてしまうことだろう。

ボクシングのトレーニング法を卓球に活かす

 ボクシングの構えは、攻撃体勢と同時に守備のブロックの構えでもある。攻守両方を兼ねているのだ。卓球の場合は、片手で打撃するので、ボクシングのようにバックスイングをまったくとらないというわけにはいかないが、フォアハンドなら、からだの真横あたりでバックスイングのトップにすると、ブロックでも攻撃的なドライブや強打でも攻守どちらでも瞬時に打つことができる。事実、この考えを裏づけるように、からだの真横、高い位置からのバックスイングでのカウンター・ブロックが、このドイツ選手権では随所でみられた。
 このバックスイングを極力とらないということは、攻守両面において理想的なことなのだが、これを実際のプレーで実行するのは、反射神経の俊敏さとフィジカルの強さが要求される。とくに、ドライブにおいて、バックスイングを少なくして、インパクト→フォロースルーによって、スピードとスピンを生みだすというのは、上体の強さと、それを支える下半身の強化が必要となってくる。
 実際には、中学生に、もう2年ほど前から、インパクトからフォロースルーにかけて振り抜くというドライブ・スイングを指導している。もちろんスピンやパワーは数段アップする。だが、これはかなり体力が必要だ。ふつうのドライブもスマッシュより体力が必要だが、その2倍はこの打法には求められる。
 このようなフィジカルの強化のためにヒントになるのはボクシングのトレーニング法ではないだろうか。とくに、ボクシングに取り入れられている、あの軽快な縄跳びの練習法は、現代卓球に役立つのではないだろうか。ボクシングのトレーニング法について詳しい方のご意見をぜひお聞きしたい。

                    (秋場龍一)